認定官たちは順番に自己紹介を始めたが、やがて自己中心的な発言を繰り出すようになってきた。
「タイガだったよな?魔族を素手で倒したんだろ。」
「いきなり飛び膝蹴りをかましたって聞いたわよ。」
etc...
五人の一方的な会話は止まらない。
事実だけどいいかげんうるさいよ、君たち。
収集がつかなくなってきたところでアッシュが、「くだらない話を続けるようなら、模擬戦はなしだぞ。」と、圧をかけて黙らせた。
おお、ギルマスの威厳か?
それとも恫喝か?
一斉に沈黙した認定官どもは、「それは困る」といった表情で真剣な眼差しになった。
「すまない。このメンバーは、強い奴と戦うために認定官をやっているようなものだからな。おまえとの模擬戦が楽しみで仕方ないんだ。」
アッシュが謝罪してくるが、誰かが「お前もだろっ!」とツッコミを入れてくる。
「あぁ~ん?」
いやいや、アッシュよ。その反応はヤカラと言うんだぞ。
本当にしまらない。
大丈夫か?このギルドは・・・
「まずは模擬戦用の武器を選んでくれ。専用のものだから、すべて刃はつぶしてある。」
修練場の端に、様々な武具がそろっていた。キャスター付きの棚に収納されている。
「アッシュとも戦うのか?」
そう聞くと、「認定官のあとにな。」と、満面の笑みで答えてくる。
「ルールは?」
「目潰しなど、後遺症の残るような攻撃や致死に至るレベルの魔法は禁止だ。」
逆に言えば、それ以外は何でもありなんだな。
「わかった。それじゃあ、模擬戦に使う武器はこれでいい。それと、魔法には制限をかけなくてもかまわないし、時間がもったいないから五人まとめて相手させてくれ。」
そう言いながら、俺は二本の伸縮式警棒を手にした。金属製でそれなりの重量がある。
両手に持って振り出すと、カキィーンという心地良い音が鳴り、八十センチくらいの長さになった。
これって、元の世界のものと仕様が同じじゃないか?
そう思えるほど、エージェントとして愛用していた物に酷似していた。
他にも、剣やらメイスやらがいろいろとあったが、伸縮式警棒を選んだのは使い慣れているという単純な理由からだ。
俺の家系は日本の忍者の末裔で、明治時代以降は政府の影の機関として暗殺や諜報を請け負っていた。
そんな家に生まれると、半ば強制的に幼少の頃より様々な武芸に身を投じるのは必然と言えるだろう。
剣も扱えなくはないが、得意なのは西洋剣ではなく刀だ。修練の一貫で居合いも修めてはいる。
だが、ここにそんなものはない。
中途半端な練度の武具を使うことは、模擬戦であっても負ける要素をわずかにでも広げる。
だからこその選択だ。
と、心の中で熱く語っていると、リルの声が耳に入ってきた。
「タイガの言葉で認定官のみんながブチキレてるわよ。」
「へっ?」
呆れ顔でフェリも乗っかってきた。
「思ってても魔法に制限はいらないとか、時間がもったいないから五人まとめて相手をするとか、ヘタレだとかは言わない方が良いよ。」
いや、フェリよ。ヘタレとは言ってない・・・
「ずいぶんとなめられたものだな。」
認定官どもの目つきがヤバい・・・
怒りでプルプルと震えている奴、歯ぎしりする奴、こめかみに青筋を浮かべている奴、眉間にシワを・・・女性なんだから止めなさい。
意識せずに放った言葉は、彼らのプライドを大きく傷つけたようだ。
アッシュはやれやれという感じで首を振っている。
だが、こんな状況は慣れていた。
「平常心を保てない奴らは二流だ。」
で、そんなことを言ってみた。
プッツーン!
「絶対に泣かしてやるっ!!」
「ちょーしこいてんじゃねーっ!土下座させるぞ!!」
「##@&→♡☆#[#@&*]」
あ、キレた。
最後の奴は放送禁止用語連発である。
「タイガ、まずいよ。本気でキレてるよ・・・」
心配そうに言うフェリに、アッシュが代わりに解説してくれた。
「大丈夫だ、フェリ。感情に振り回される奴に大した動きはできない。タイガは負けないよ。」
さすがにアッシュはわかっているようだ。
「しかし、模擬戦の前に相手を極限まで怒らすとはな。策士だな。」
「えっ・・・タイガ、わざとやってるの?黒い!黒いよっ!!」
そこの兄妹よ。
俺をこれ以上ネタにするのはやめなさい。