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第27話 スレイヤーギルド

街に戻ると、アッシュたちと一緒にスレイヤーギルドを訪れた。


この世界に来て初めての街だったが、中心部は五階建てくらいのビルが立ち並ぶ、それなりに近代的な都市であった。


「思っていたよりも栄えているな。」


何となくそうつぶやくと、フェリが簡単に説明してくれる。


「ここはギルバート家の領地内で二番目の都市なの。人口は約四万人。スレイヤーギルドがあるから、魔物から採取される素材の取引きを中心に経済が発展しているの。」


「そっか。フェリたちが暮らしているのもここなのか?」


「うん、そうよ。私が通っている王立魔導学院も中心部にあるわ。」


学院──フェリは学生なのか。


「その学院には、図書館があったりするのかな?」


「あるけれど、魔法に関する書物は一般公開されていないよ。」


キョトンとした表情で小首を傾げるフェリ。いちいちカワイイな、おい。


「歴史書とか文化について書かれた本が読みたいんだけど、無理かな?」


「それなら大丈夫だよ。」


明日に学院の図書館に行くことにした。この世界に関する知識をできるだけ頭に入れておきたい。字が読めるかわからないが、何とかなるような気もする。


「フェリの制服姿を見てみたいしね。」


冗談半分にそう言うと、フェリは耳まで真っ赤になってしまった。


あれ?


そんなに恥ずかしい制服だったりするのかな?


因みに、ラルフは馬車を格納庫に持って行ったので、ここにはいない。




「着いたぞ。ここがスレイヤーギルドだ。」


そう言いながら、アッシュが前方の建物を指す。


落ち着いたレンガ色で五階建ての造りをしており、学校のように400メートルトラック級のグラウンドが手前にあった。


「手前は認定試験を行う修練場だ。あとでタイガには模擬戦をやってもらいたい。」


「模擬戦?」


「一応、スレイヤーの等級認定に必要だからな。」


アッシュは、なぜかワクワクしながらそんなことを伝えてきた。


「たぶん模擬戦の相手はアッシュよ。彼は強い人と戦うのが趣味だから。」


リルがそっと耳打ちしてくれる。


そう言えば、初対面の時に「俺が強そうだから」とかなんとか言っていたな。


バトルジャンキーって事か。


なんか納得だわ。


建物内に入ると、中の職員から口々に声がかかる。


「おかえりなさい。ギルマス。」


みんながアッシュに向かって挨拶している。


「ギルマスって?」


聞きなれない単語のため、隣にいるリルに聞いてみた。


「ギルドマスターのことよ。」


「アッシュはギルドマスターだったのか?」


「ええ、一年前に就任したのよ。あれでも、国内では最強のスレイヤーだから。」


アッシュが国内最強のスレイヤーだと聞いても、意外性はなかった。


強さを目の当たりにしている訳ではないが、普段の動きを見ているだけで手練れであることは理解できる。


俺の身体能力が元の世界の時と同等であったなら、良い勝負ができただろう。当然、魔法抜きでの話だが。


「タイガ、こちらの席でスレイヤー登録してくれ。それが終わったら模擬戦をする。」


アッシュはそう言って、階段を上っていった。


「ではこちらにおかけください。」


ギルドの職員に席を進められて座る。


リルとフェリは、「あとでね。」と手をふって奥にあるカフェスペースに向かった。


「この書類に記入してもらえますか?」


実直そうな女性職員から差し出された用紙に、必要事項を記入していく。


なぜかわからないが、文面は問題なく読めた。


さらに、文字を書く時もなぜだか補正がかかり、記載されているものと同じ言語になる。不思議だ。というか、ちょっと怖い。


「住所はまだ決まってないんだけど。」


住所記入欄が目に入ったので質問してみる。


「ギルマスからの紹介なので、空欄で構いません。住むところが決まったら、追記していただきます。」


名前、年齢、住所と魔法属性を書くだけの簡単な書類だった。下部はギルド側の記載欄だったので、すぐに記入は終わる。


書類を確認している職員は、魔法属性欄を見て怪訝な表情をしていたが、そのままスルーしてくれた。


"使えない"って書いたのが、不思議だったのかもしれない。


アッシュの紹介だからツッコまなかったのだろう。


「では、スレイヤーの職務について説明させていただきますね。」


その後、約一時間に渡る説明がなされた。


丁寧に説明してくれたので、この世界の知識があまりない俺でも理解しやすかった。


要点を抜粋すると、以下の通りである。


スレイヤーの職務は、魔族や魔物の討伐が主任務であるそうだ。そして、等級スレイヤーランクによって任務が割り振られるらしい。


報酬については等級に応じた月固定給と、依頼報酬インセンティブが別途任務完遂後に支払われる。ただし、一定期間中に規定の任務数を完遂できなければ、固定給支給は凍結される。また、支度金については等級認定後に初回のみ支給あり。


等級認定については、ギルドの認定官が規定の項目にそって行う。また、各等級ごとの評価ポイントが目標値に達することで、等級認定を受けることができるとのこと。


討伐認定については、ギルド認定証が対象の魔力を察知して自動的に登録が行われる。固定給や報酬の支払いデータについても認定証に登録がされ、ギルドの指定対象店舗では認定証による支払いも可能などなど。


「認定証について教えて欲しいのだが、これは魔力を使って機能するのかな?」


認定証は、元の世界で言う身分証IDや銀行のカードなどの機能を兼ね備えている。


非常に高度なシステムだと思う。


しかし、もし魔力が必要であるのならば、俺には使いこなせない。


「認定証には魔石が埋め込まれています。三年に一度くらいは交換が必要ですが、認定証自体が必要に応じて自動で魔力を発するので問題ありません。」


戦闘で魔力枯渇に陥っても、討伐認定は勝手にやってくるのでご安心くださいとも付け加えられた。


こちらの世界にはあまり科学という概念はなさそうだが、すべてを魔力に置き換えて技術が発展していると考えればわかりやすいのかもしれない。


「他にご質問がなければ、この三点の形状の中から認定証をお選び下さい。」


職員はそう言ってカード、ネックレス、ブレスレットを出してきた。


「機能的にはすべて同じとなります。それぞれの費用はこちらの一覧に記載されています。等級認定後に支払われる支度金でのお支払いとなりますので、現金は必要ありません。」


支度金は一番低い等級で十万ゴールドだった。俺は戦闘時に邪魔にならないと思われるネックレスタイプを選択する。


一番高い三万ゴールドが差し引かれるが、これなら紛失の心配もあまりないだろう。


「では、認定証は等級確定後にお渡し致します。外に認定官が待機していますので、そちらにお願いします。」




修練場に行く途中で、リルとフェリが合流してきた。


「お疲れ様。あとは等級認定だけよ。わからないことがあったら、何でも聞いてね。」


リルが気づかってくれた。


非常に助かる。


「認定証で支払いができる店舗って多いのかな?」


「ギルド周辺のほとんどのお店で使えるわよ。ポイントも付くからお得だしね。」


キャッシュレス化の波は、この世界にも押し寄せているようだ。




「よう。」


修練場に行くと、アッシュが待ち構えていた。なぜか後ろにいかついおっさん三人と、きれい系のお姉さん二人を従えている。


「待たせたかな?」


「いや、登録にかかる時間を逆算して来たから大丈夫だ。それよりも、提案があるんだが。」


アッシュが気まずそうな顔をしている。


「タイガの等級認定の相手は俺がするつもりだったんだが・・・ここにいる五人にお前のことを話したら、自分たちが認定試験をするって聞かなくてな。」


後ろの五人は、全員が腕組みして不敵に笑っていた。


「わあ、バトルジャンキー勢揃いだ・・・。」


後ろから、フェリの嫌なつぶやきが聞こえてきた。


アッシュよ、お前は俺のことを何と話したんだ?








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