下山して、麓に止めてあった馬車に乗った。
馬車といっても想像とは違い、客車部分は頑丈な金属製のフレームと板で形成されている。
馬は繋がれておらず、印象は車に近かった。
「こちらの世界の馬車はこんな感じなのか?」
何気に聞くとリルが教えてくれた。
「一般的なものは馬をつないで引かせるわ。これは召還スキルを保有している魔法士にしか扱えないの。フェリがその使い手よ。」
フェリを見ると、目線を合わせてクスッと笑っていた。機嫌はなおったようだ。
「召還スキルって?」
そのままフェリに聞く。
「精霊を召還する力。精霊は魔法を強化補助してくれたり、精神体として力を貸してくれるわ。今はユニコーンの精霊がこの馬車を引いてくれている。」
「そうなんだ。」
何となくしか理解はできないが、大まかな意味は掴めた。
ただ、そのユニコーンの精霊とやらは見えない。俺だけが見えないのか、他の者も同じなのかはわからないが、細かく聞く必要もないだろう。
「召還スキルを保有しているのは稀有な存在だ。この国では十人といない。フェリはそのうちのひとりなんだ。」
あまりしゃべらなかったラルフが自慢するかのように補足してくる。
なぜコイツがドヤ顔なのかわからないが、リルの呆れ顔を見て気にするだけ無駄なことだと思うことにした。
「フェリはすごいんだな。」
素直に感想をのべると、フェリは頬を少し染めてうつむく。
かわいい。
こんな妹がいたら毎日楽しいだろう。
すぐに前の席に座るラルフから、殺気のようなものが流れてきた。
はは~ん。
コイツ、惚れてるな?
あとでからかってやろう。
「タイガのいた世界には、馬車はなかったの?」
好奇心で目を輝かせたリルから質問がきた。
「存在はするが、今は自動車というのが主流だな。」
「自動車?」
「燃料を内燃機関で燃やして走る車のことを言うんだ。」
「内燃機関?へ~、面白いわね。魔道具的な感じかな。今度もっと色んなことをじっくりと教えて欲しいなぁ。」
妖艶なお姉さんからそんな風に言われると、ちょっと胸がざわついてしまう。
そして、フェリはまたチラチラとこちらを見ていた。
「ところで、ラルフは独身なのか?」
「な、何だ急に。」
おっさんは突然の質問になぜか焦りだした。
「一番人生経験が豊富そうだから。」
ラルフは何やら悔しそうにうつむいた。
「ラルフは独身よ。まだ成人したばかりだし。」
リルが答えてくれたが・・・
はっ?
成人したて?
何歳なんだよ。
「こちらでは18歳で成人なの。」
18歳?
ラルフが!?
この世界の人間はフケているのか?
「アッシュは何歳なんだ?」
「ん?俺は21だ。結婚もしているぞ。」
「そうそう。一緒にスレイヤーをやっていた聖属性の魔法士とデキ婚。」
楽しそうにリルが補足した。
ああ、そういうことね。
それにしても、ラルフの年齢は衝撃的だった。
どうみてもアラフォーだろ。