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第21話 異世界には異世界の脅威があった②

合流地点が見えてきた。


銀髪の女の子と、桃色髪の妖艶なお姉さん、それに金髪のゴツいおっさんの三人組だ。


そして後方から空を飛んでくる赤髪の男・・・何でもありだな、おい。


赤髪の男は三人の背後に迫り、邪悪な笑みを浮かべながら剣を構えていた。殺気はないが、間違いなく攻撃態勢に入っていると見るべきだろう。


アッシュは俺のスピードについてこれずに遅れている。三人は前から走ってくる俺に気を取られており、後方から迫る赤髪の男には気づいていなかった。


赤髪の男が銀髪の女の子に向かって剣を振りかざそうとしたため、咄嗟にそれに向かって跳躍した。


他の三人は頭上を飛び越えた俺を視線で追うことで、初めて後方の存在を認識したようだ。


15m程の距離を一気に詰めて飛び膝蹴りを赤髪の顔面にぶちこんだ俺は、そのまま剣を奪い取り、地面に落ちた相手を抑え込んでいた。


「えっ、何!?」


「魔族!?」


「何だ、今の動きは!?」


三者三様の反応だが、やはりこの赤髪は魔族らしい。


「無事か!?」


すぐに追いついてきたアッシュが状況を確認する。


三人は俺とアッシュを交互に見ながら、何が起こったのかを悟ったようだ。


俺は外野の混乱に流されずに魔族に集中した。


どんな力を持っているのかわからない状況なので、すぐに命が絶てるよう隙は作らない。


「アッシュ、こいつはどうしたらいい?」


目線を魔族に向けたまま聞くと、アッシュを含めた四人が俺と魔族に視線を送ってきたのが気配でわかった。


「ぐう、貴様は・・・一体何なのだ・・・」


魔族が苦しそうにそう吐き出した。


膝で頸動脈を押さえつけ、片腕は関節を逆方向にねじりあげている。


奪った剣は動脈に当てている。人間と急所が同じであれば妙な真似はできないはずだ。鼻と口からは、おびただしい紫の血が流れていた。


鼻骨と上顎が陥没しており、普通の人間なら意識を保てないほどのダメージを与えた。それなのに普通に話ができていることがおかしい。


「タイガ、すぐに始末しろ!」


アッシュが叫んだ。


声に焦りの色を感じて剣に力を入れようとした瞬間、赤髪の体に異変が起こった。


急激に体が盛り上がり、それと同時に禍々しいオーラに包まれる。


「まずいわっ!」


妖艶なお姉さんがきれいな顔を歪めて叫ぶと同時に、俺が手にした剣が真っぷたつなった。


陥没していた魔族の顎には鋭い牙が生え、それが剣を噛み砕いたようだった。


放たれるオーラは禍々しさを増し、俺を包み込む。


このオーラは人体に何か影響を及ぼすのだろうか?


非現実的なことの繰り返しで、俺の思考は焦るどころか冷静さを増していく。オーラ自体はまとわりつくような不快感を微かに感じさせるが、体に何か影響が出ているような気配はなかった。


「早く逃げて!そのオーラは魔力を介して精神干渉してくるわ!!」


妖艶なお姉さんが叫んでいる。


そうなのか?


じゃあ、そういうことにしておくか。


「ぐうぅぅぅ。」


俺はとってつけたかのような苦悶の表情を浮かべてみた。


「クックックッ。身体能力の高さには驚かされたが、所詮は人間。我に血を流させたのを悔いるがいい。」


仰々しく話す魔族の体はさらに巨大化し、俺が極めていた腕が強引に振りほどかれた。


バランスを崩しかけて横に飛んだ俺の首を、片手で掴み宙に吊し上げる魔族。


すでに変体が完了した魔族は、青銅色の肌をして三メートル近い身の丈へと変貌していた。動きも速く、パワーも尋常ではない。


赤い眼に両端がつり上がった口。背中からは、大きな黒い翼が生えていた。


昔見た漫画でこういうキャラがいたな。いや、そんなこと今はどうでもいい。


首に食い込んだ爪が不快ではあったが、大したダメージはなかった。


「タイガっ!」


「ダメよ、兄さん!不用意に近づいたら精神干渉を受けるわ!!」


俺の名を呼び、近づこうとしたアッシュに銀髪の女の子がストップをかける。


兄さん?


あの美少女はアッシュの妹か。


「クソっ!」


悔しそうに言葉を吐き出すアッシュ。今度からお兄さんと呼ばせてもらいます。


「ぬう・・・貴様、なぜ精神干渉にかからない?」


魔族が不思議そうな眼で俺を見ている。バレたようだし、そろそろ潮時だと感じた。


「媒体にする魔力が元からないからじゃないか?」


そう言いながら、俺の首を締め上げている奴の手首を掴み、両足でその腕を挟みこんで勢いよく体を捻った。


ゴキュッ!


嫌な音を立てて青銅色の腕が脱臼する。


「グガァッッッ!」


苦悶の表情を浮かべる魔族。


痛みを感じるということはダメージを与えられるということだ。魔族も人間と同じ対処法が有効であると考えることにした。


俺は魔族のこめかみをそのまま踵で蹴る。


一瞬ふらついた魔族から離脱して間合いを取り、そのまま体重を乗せた回し蹴りを反対側のこめかみに放った。


こめかみを狙った回し蹴りは、わずかに上体を反らされて頬への打撃となる。


「くぅぅぅ・・・」


魔族は反対方向に仰け反る感じとなったが、足を踏ん張り倒れない。


さすがにすぐには倒れないか。


重力の影響で、俺の打撃は以前の数倍から10倍程度の破壊力となっているはずだ。


エージェントという仕事柄、元々が素手で熊を倒せる──たぶん・・・闘ったことはない──くらいの実力は持っている。


それでも、一撃必殺と言う訳にはいかないのが魔族なのか?


「す、素手で戦ってる・・・」


「相手は魔族なのに・・・」


「化け物か・・・」


アッシュの仲間たちが口々に所感を述べて絶句している。


しかし、最後の奴は失礼だろ。金髪のおっさんか?


魔族の状態を見ると、足にきているようで踏ん張った方の膝がガクガクと揺れている。脳へのダメージは人間と同じようだ。


俺はステップで間合いを詰めることにした。

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