アッシュが他にも仲間がいると言うので、一緒に合流地点へと向かった。
異世界で言葉が通じる相手に早い段階で出会えたのは大きい。
「家名からして、アッシュは貴族か何かなのか?」
この世界の常識を知るために、道中で疑問に感じた事を聞いてみた。
「ああ。辺境伯の次男坊だ。大した身分ではないがな。」
辺境伯と言うと、国境に位置する領土を治め、外部からの防衛を主とする職務を担っている。
国の防衛の要となる要職で、身分はそれなりに高いはずだった。貴族制が存在するのであれば、中世の西洋文化に近いものがあるのかもしれない。
「それなのにスレイヤーをやっているのか?」
貴族の次男坊ということは、領主にはなれないのだろうが明らかに平民とは異なる。
危険な職務についているのが不思議に思えた。
そもそもスレイヤーとは、何を討伐する存在なのかが俺にはよくわかっていないのだが。
「俺たちは魔族や魔物専門だからな。奴らは人類にとっての脅威だ。特にここは魔族が占有している地域に隣接しているから、辺境伯であるギルバート一族の責務でもある。」
基礎知識がない上で話を聞いているが、これまでの情報を脳内で要約してみた。
まず、この世界には魔族や魔物、魔法が存在する。まさにThe Fantasyだった。
世情としては、貴族制度やアッシュの装備を見る限り、中世西洋文化に近い世界なのかもしれない。このあたりはさらなる考察が必要だろう。
ギルバート家の当主はこの国の辺境伯で、隣国だけでなく、隣接している魔族の支配地から危険分子が侵入してこないように守護する責務を担っている。
そしてアッシュは、その辺境伯家の次男で、魔族と魔物専門のスレイヤーだそうだ。
当然、俺が住んでいた世界とは状況が異なるとは思っていたが、魔族に魔物に魔法か。まぁ、エイリアンを相手取るよりは全然マシな気がする。魔族や魔物が映画などで見るエイリアンと酷似していたら別の話になるが。
「魔族や魔物が出ても俺たちが相手をするから心配はするな。それよりも、行くあてがないのなら俺たちが街まで連れて行くが、それで良いか?」
頭を整理するために黙りこんだ俺が不安にかられているとでも感じたのか、アッシュは優しい言葉をかけてくれた。
イケメンだし、こういった気づかいができるのであればモテるのだろうな。
「ありがとう。アッシュに出会えて良かったよ。」
素直に礼を言うと、「あ、いや。まぁ、ついでだし、タイガは強そうだからな。」などと、なぜか歯切れの悪い答えが返ってきた。
照れているのか?
「強そうって、何か関係があるのか?」
「いや、別に。」
少し嫌な予感がした。
こいつにはこいつの意図があるのかもしれない。
まさか奴隷として売り飛ばすとか、ホモだったりはしないだろうな?
もしそうなら、全力で倒す。
息をつく間もないほど、手早く倒してやる。
疑心暗鬼になったところで、合流地点に近づいたのか、アッシュの仲間らしき者たちの気配を感じるようになった。
三人。
いずれも危険を感じるような存在ではなかったが、そこからさらに後方に何かがいた。
人とは異なる異様な気配。
殺気は出していないが、邪気を感じる。
他の三人は気づいていないのか、緊張感もなさそうだ。
「アッシュ、魔族や魔物は単独で動いたりするのか?」
「ああ。魔物に関しては強力な個体もいるが、殺気を振り撒いているから存在を察知しやすい。厄介なのは魔族の方だ。人間に化ける奴もいるし、気配を消して人を襲ったりもする。聖属性の魔法士なら魔族の気配を察知できるから、大きな教会のある街にはあまり近づいて来ないがな。」
「お前の仲間に、その・・・聖属性の魔法士はいるのか?」
「いや、この前まではいたが、今は産休中だ。」
おいおい、いきなり魔族に遭遇か?
自分が感じた邪気が魔族のものなのかはわからないが、今はアッシュの仲間に危険が及ばないようにすべきだろう。
「アッシュ、魔族かどうかはわからないが邪気を感じる。合流地点に急いだ方がいいかもしれない。」
「何っ!?」
こうして、俺達は全力で走り出した。