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第18話 出会い②

少し休んで復活した俺は分析することにした。


あのくらいの労力で、ギネスの恒久的な一位記録樹立となるような反復横跳びができたんだ。重力は地球の8から10分の1くらいか。では、打撃についてはどうだろうか?


少し先にある直径30cmほどの木に打ち込みを行うことにした。今までなら、渾身の蹴りを入れてもあの太さの木が折れることなんてあり得ない。


軽めにいくか。


そう考えて、爪先に重心を寄せる猫足立ちで構えを取り、目標である木に集中する。呼吸を合わせ、瞬時に移動。わずか一秒程で20mの距離が詰まってしまった。


ヤバっ!?


そう思った瞬間、股間から木にぶつかってショックで死にそうになった。


前蹴りのモーション中に体が浮き、タイミング的にも間に合わなかったのが原因だ。


「か、かなり抑えたのに・・・速すぎるだろ・・・う。」


走る車が木にぶつかったような衝撃であっただろうが、重力の違いでダメージ量も低いのだろう。大したケガをすることはなかった。


アレがつぶれていないことを、何度も確認してホッとする。




深いため息を吐いた。


さっきから自爆ばかりだ。パンツ一枚姿で木にぶつかって死ぬとか最悪だぞ。


数十分間のインターバル後、気を取り直して同じ間合いを取る。タイミングを計算して動きをイメージした。重心は意識して低めにしないと体が浮いてしまうので、体の傾斜角も深くする。


ゆっくりと息を吐き出し、リスタートした。今度は絶妙なタイミングで、前蹴りのモーションに移行。木の幹の真芯に右足を叩き込んだ。


次の瞬間。


あろうことか、蹴りの衝撃が強すぎて、木が真っ二つに折れて180度縦に回転。およそ8mほどの高さにあった木の最上部が高速で地面に衝突し、そのまま焚き火をしている方に吹っ飛んでいった。


「あーっ!」


ドッシーンっ!


地響きを立てて地面に落ちた木の風圧で、乾かしていた服が宙に舞った。焚き火への直撃は免れたが、飛んだワイシャツが火に触れて燃え上がってしまった。


「・・・・・・・・・。」


さすが上質の綿と絹で作られた生地だ。速攻でワイシャツが亡き者となった。


・・・汚れていたし、まぁいいか。


気持ちの切り替えの早さは、エージェントにとって重要なスキルと言えよう。


あっ、やば。


ズボンだけは死守しなければ。


何とかズボンとインナーシャツを死守して身に付けていると、複数の気配を感じた。どうやらこちらに向かっているらしい。


騒がしくし過ぎたか。


さっきの地響きで何者かの興味を煽ってしまったようだ。


人間ならいいが、肉食動物やエイリアンという可能性もゼロとは言えない。俺は自分の近くに手頃な石が落ちているのを確認した。


しばらくして、木々が生い茂る方角からガサガサと草木を押し分ける音が聞こえてくる。


相手は三体。


気配を隠すような素振りはなく、一直線にこちらに向かってくる。


茶色の毛並みを持つ獣。


しかも、大型の狼のような体躯が視界に入ってきた。殺気に似たような雰囲気をまとっている。


こちらを獲物として見なしているのは間違いないだろう。


そう感じた俺は躊躇せずに近くの石を手にし、まだ草木に見え隠れする一体に投げつけた。


手を離れた石は超高速で狼の一体に命中。頭部が爆散した。


今はこの身体能力に感謝だな。


狼の敏捷性は森の生物の中でも群を抜く。草木が障害物となっている間に手早く終わらせるべきだろう。残りの二体も投石ですぐに沈黙させた。




一方、地響きを不審に感じて状況確認に出向いてきた者がいた。


プラチナブロンドの短い髪をした碧眼の男だ。


長身でがっしりとした体格をしているが、柔らかい表情と緩い雰囲気を醸し出している。彼は魔物専門の討伐を生業にしており、若いながらも高ランクの実力を持っていた。


『なんだ、あいつは?』


投石だけで三体の魔狼を屠った黒髪で長身の男。


見慣れない装いをしているが、身体能力がハンパではない。シャツから露出している肩や腕は、冒険者としては細身だが鍛え抜かれた体ということが見てとれる。


一見、スピードと体のキレで動くタイプに感じるが、先ほどの投石の破壊力は異常だった。魔法を使ったにしては魔力も感じない。


おもしろそうな奴だ。


バトルマニアの傾向があるこの男は、普段は魔物の討伐をメインとするスレイヤーという立場にいる。


魔物は人間よりもはるかに強靭な体を持ち、相対するのはなかなかに面白い。しかし、対人戦では頭脳による化かしあいや技術による攻防などもあり、魔物とは違った戦闘が楽しめたりもする。


模擬戦でもしてみたい相手だなと勝手に考えていると、ふと視線に気がついた。黒髪の男がこちらをジーッと見ていたのだ。


『えっ、マジかよ。』


男は巧妙に気配を消している。


さらに、向こうからは姿が見えないよう木陰に身を隠しており、距離もかなり離れていたのだった。





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