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第17話 出会い①

水はきれいだった。


淵を見ると、透き通った水の中にはマスのような魚が泳いでいる。


周辺の枯れ木を集めて平坦な場所で火を起こした。ポケットにライターと万能ナイフだけが入っていたので、火は簡単に点く。


衣服を脱いで水で洗い、焚き火の近くで乾かす。血で汚れた生地は水洗いで多少はましになったが、白いシャツについた赤や黒色の染みは微かに薄くなっただけである。汗や脂といった汚れが少し落ちただけでも良しとすべきだろう。


平地になっている場所で、先ほどの疑念を検証してみた。軽く跳び跳ねただけなのだが、まさかと思っていたことが現実化してしまった。


普通ならば地面から数十センチも足底が離れればいい程の跳躍なのに、3mは離れている。


マジか。


そう思った矢先にミスを犯したことに気づいた。


そう、俺は裸足だった。


そのまま着地し、足底と地面がぶつかる衝撃で声の出ない痛みを感じて涙目になったのはいうまでもない。


最悪だ。


数分で痛みから立ち直り、涙目になったままの顔で次の検証に移ることにした。


ここは山間部だが、ジャングルではない。普通なら、僻地であっても今の文明に欠かせないアレがあるはずだった。そう、携帯電話の基地局だ。今の地球の文明なら、山間部でもどこかにそういった設備があってもいいはずなのに、先ほど木に登った時には見当たらなかった。


決定的なものではないが、重力が地球とは異なることや、携帯電話の基地局が存在しないことであっさりと結論づけることにした。


ここは地球じゃない・・・たぶん。


携帯電話がつながらない辺境の地という可能性がないわけではない。しかし、それでは異常ともいえる身の軽さは説明できなかった。


ジャングルや人が立ち入ることができないほど草木が鬱蒼としているわけではないことから、辺境であっても人の出入りがないようにも思えない。さらにいえば、発展途上国よりも経済的発展が遅れている後発発展途上国にしては、気候や風土に違和感があった。


マッドサイエンティストの野郎を恨みつつ、前を向いて考えることにする。さて、どうやって生きていこうかと。


ここが地球以外の場所だと想定する。


いわゆる、異世界とでもいうのだろうか。仕事柄、任地までの移動時間が毎回長かかったため、読破した小説や視聴した映画の数は半端ではない。そういったフィクションからのイメージでは、俺の置かれた状況は異世界転移に近いと思えた。


まぁ、悲観的なことを考えるよりも、やるべきことを先にやってしまおう。


先ほどの反省を生かし、靴を履く。今から身体能力の検証を行うからだ。


重力が地球よりも低いということは、力もスピードも格段に増しているはすだった。


軽く跳んだだけで3mの高さまでいけるということは、本気で動けばとんでもない結果となる。自身の力量は常に把握しておくことが重要で、いざという時に適切な力配分で動けなければ自ら窮地を招くだろう。


軽く動いてみるか。


俺はストレッチを入念に行った後に、軽く反復横跳びをする。


かなり抑えぎみなのだが、シャッシャッシャッという風を切る音と同時に、恐ろしいほどの速さで景色が左右に流れていった。


これはヤバい。


「おえっ・・・」


えげつないスピードでの反復横跳びは、脳と胃への激しい揺れで俺に大ダメージを与えた。めまいと吐き気がする。


ボクサーブリーフと革靴だけの男が、残像を残すようなスピードで反復横跳びしているなんてただの変態じゃないか。


精神的にも結構なダメージとなった。


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