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第6話 Lucifer's Hammer⑥

「裏が取れたわ。その組織は、ある国の諜報部が囲っている外郭組織よ。」


シャーリーと連絡をとり、遺体安置所の出来事からわかった経緯と推測を伝えた。


「拠点はどこにある?」


「市内にあるわ。」


「そこが奴らの実験場という確証は?」


シャーリーはしばらく無言だった。


「どうするつもりなの?」


「任務を続行する。」


「・・・・・・・・・。」


「放っておくと、後の脅威になる。実地調査を行って、その結果によっては対応策を講じないといけないのではないのか?」


「あなた、誰?」


「誰とは?」


「さっき話した人間とは・・・別人のようよ。」


「声紋でも調べたらどうだ?」


「・・・・・・・・・。」


「バックアップは要らない。不測の事態が生じたら連絡する。」


そう言って、俺は通信を終了させた。




「声紋解析に問題はありません。エージェント・ワン本人です。」


通信を切ったシャーリーは、部下に命じていた解析の結果を聞いた。


「音声感情解析はどうだった?」


「不思議なくらい何の反応もありませんでした。まるで、機械が話しているような結果です。」


「何かの異常が起きた可能性は?」


「それはないでしょう。周波数分析も行いましたが、彼の肉声に間違いありません。それに、脅されて話しているという反応も出ていません。」


「そう・・・。」


シャーリーは先ほどの通信に違和感を覚えた。


あまりにも感情の無さすぎる声質が、昼間に会ったエージェント・ワンと結びつかなかったのだ。


通信による弊害だろうか。


過敏になりすぎるのは悪い癖だと、自分を戒めることにした。


エージェント・ワンのこれまでの行動を考えると、無謀なことはしないはずだ。


そう思いはするが、なぜか胸騒ぎがした。






タタタッ!


ベレッタ M93Rが小気味良い音を奏でた。


マシンピストルというジャンルのオートマチック。世界には似たような銃が複数存在するが、個人的にはこのモデルが最も実用的だと考えている。


拳銃に連射機能を備えるとなると、その軽い銃身では反動を抑えることは難しく、どうしても前部取手ファグリップ銃床ストックを付ける必要に迫られる。


そんなものを付けてしまうぐらいなら、始めからサブマシンガンを所持すれば良いだけなのである。


ベレッタ M93Rに関してはフルオートではない。拳銃の大きさで三連射を可能としているため、他のマシンピストルに比べて制御がしやすく、その火力も大きいものとなっていた。


ニューヨークは特に銃器に関しての規制が厳しい都市である。


街中で重火器や小銃を持ち歩くことは余計なリスクを背負うため、この銃を組織の武器庫から拝借して来ていた。


とはいえ、過剰な火力は狙いの不安定さにつながるのは変わらない。


これまでの経験から、照準を下方に合わせながら目算で射ち放つ。


対象が倒れたのを確認すると、すぐに弾倉マガジンを交換して再装填リロードを行う。


すでにベレッタの餌食となった相手は三十人を超えており、周囲は鮮血で染まっていた。


侵入した施設内で、実態についての補足調査を行った。


証拠となるデータだけを奪い、すぐに離脱するつもりだったのだが、発見した資料の内容を見て考えを改めることにした。


建物の地下にある施設に向かい、その状況を目の当たりにすると、その考えはさらに加速して俺の中で何かのタガが外れてしまったようだ。


記憶メディアや端末がある部屋については火を放つ。


実験用の器具や医療用の什器類には、揮発性のガスを用いて爆破を行った。


ここで見たデータは残してはならないものである。


そのための行為だ。


残虐な行いではあるが、軍や組織にとっては有用性のあるデータ。それだけにたちが悪すぎた。


これが暗部といわれる組織に流れれば、同じ実験が繰り返される可能性は高い。それは、今後もホルダーと認定された者に地獄を与えることと等しい。


同じホルダーとして怒りに燃えたわけじゃない。


エージェントとしての責務を全うしているだけだ。


それが自身の任務を逸脱した行為に対する言い訳だということに、最初から気づいていた。





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