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第2話 Lucifer's Hammer②

成田空港に到着した。


普段から拠点としているアメリカに戻りたいところだったが、任地からの直行便がなかったのだ。


偽装通りに帰国したという体裁を保てることもあるので無駄ではないのだが、職務のことを考えるとあまり立ち寄りたい国ではなかった。


日本が嫌いだというわけではない。


顔見知りに出くわすと、いろいろと面倒だったりするからだ。


今の組織に移される前は、この国の国防を担っていた。国際空港というのは、その時の元同僚であったり、かつての敵対勢力と出くわす危険がないともいえない場所だ。


偶然の出会いなら確率は低いものだろう。


しかし、俺のような職務なら邂逅ではなく必然的な出会い──要するに、意図的に仕組まれた偶然というものが発生したりする。 今回は運の悪いことに、それに遭遇することとなった。


「久しぶりだな。」


「できれば、違う形で再会したかったものだ。」


税関で止められて、今いる部屋に連行された。


空港警察による取り調べ。


そう思っていたのだが、目の前にいる男とは面識があった。


「そう言うな。今は互いにデリケートな立場にいる。」


彼は大学、そして最初に就職した機関の同期だった。


「要件は?」


この場で友情を確かめあうなんてことにはならない。


彼の今の所属は国の情報機関である。内閣情報調査室と呼ばれ、日本版CIAとも称されている。


「君が今どういう立場にあるのかは知っている。久しく日本には足を踏み入れていなかったようだが、今回の来日は何のためなのかに興味がある。」


俺の今の所属は国外に拠点を置いている。


複数の国が出資し、独自の運営がなされた組織である。普段から敵対しているという訳ではないが、ある意味でライバル企業のようなものに相当するといえた。


「どの国から来たのか知っているのだろう?目的は話さなくても把握していると思うがな。」


渡航記録を手繰ればすぐにわかることだ。


もちろん、偽造パスポートであることも含めてのことだが。


「そうだな。一応、忠告だけしておこう。すぐにこの国を出ろ。でなければ、くだらない理由で逮捕されることになる。」


「わかっている。荷物に航空券チケットが入っているのを確認していると思うが、午後の便で発つ予定だ。」


彼と交わした会話はそれだけだった。


何のために拘束したのか解せない点が多いが、それ以上に何かを追及されることはなかった。




成田を発ち、およそ12時間半のフライトでJFK空港に到着する。


荷物をピックアップし、エアリンクシャトルと呼ばれる乗合バスに乗車した。


拠点として使っているマンハッタンの住居までは1時間半くらいの運行になる。


普段はこんなものには乗らないが、今回は事情があった。


空港からの尾行がないかどうかの確認のためである。


任地からは何者かが追跡している様子などはなかったのだが、成田空港での出来事が慎重にさせたといえる。


なぜ、あのタイミングで彼が接触してきたのかがわからない。


用もないのに、わざわざ他の組織の人間を刺激するようなことはしないはずだ。


それなのに、なぜあのような真似をしたのか。


勘に触るものは何もない。


三十分ほど経過したところで、ドライバーに停車の意思を伝えて降ろしてもらった。


タクシーのように好きなところで降車できるのがエアリンクシャトルの利点である。


俺はすぐに近づいてくるイエローキャブに手をあげて乗り換えた。


追跡されている様子はないといっても、慎重に行動することは無駄ではない。


特殊なスキルを持つ人間が、こちらが気づかない方法で動きを捕捉している可能性もあるのだ。




アパートメントに到着し、荷物の整理をした時にそれに気がついた。


盗聴や追跡のための装置がないことは、成田を発つ前にスマートフォンに入っている解析アプリで確認していたのだが、さすがに想定外の物には反応するわけがない。


マイクロフィッシュと呼ばれるシート状のマイクロフィルムが、俺のバッグの内ポケットに入れられていたのだ。


マイクロフィッシュは、1枚のフィルムを碁盤のように分けて焼き付けられた極小のアナログ記憶媒体である。


しかも、専用の装置が必要になるコムフィッシュに分類されるものであることがわかった。


当然のことだが、このコムフィッシュは光に透かしただけでは記録されている内容などを読み取ることはできない。


これを有効にするためには組織のシステムを利用するか、警備の薄い図書館に忍び込むくらいしか方法が思い当たらなかった。


少し考えた末に、スマートフォンを取り出して記憶している番号を押すことにした。





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