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勇者の紋章を光らせることが出来なかったゲオルグは台座ごと聖剣を引き抜いてしまったようです――3本の聖剣と3人の勇者
勇者の紋章を光らせることが出来なかったゲオルグは台座ごと聖剣を引き抜いてしまったようです――3本の聖剣と3人の勇者
腰尾マモル
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月12日
公開日
26.4万字
連載中
とある北の国に『勇者のみが抜くことのできる3本の聖剣』が存在していた。

聖剣は柄に刻まれた黒い円の紋章を全て光らせた者のみ抜く事ができ、聖剣を手にすることで勇者の資格を得ると言われていた。

年に一度、聖剣を抜く事にチャレンジできる三聖剣祭では大勢の者たちが台座から聖剣を抜こうと挑戦するが、ろくに紋章を光らせることができず微塵も抜ける気配がなかった。

しかし、祭りの途中で現れた3人の男だけは違った。

クレマンと呼ばれる王子は聖なる紋章を完璧に光らせて聖剣を抜いて勇者となり

パウルと名乗る少年は聖なる紋章を半分しか光らせることが出来なかったものの観衆に勇者候補としての可能性を見せつけた。

そして、主人公ゲオルグは聖剣を抜くために柄へ手を掛けるが紋章は3分の1しか光らせることができなかった。

それでもゲオルグは聖剣を諦めはしなかった。

なんとゲオルグは人並み外れた腕力を駆使し、台座ごと聖剣を抜いてしまったのだ。

歴史上、例の無い勇者の誕生っぷりに観衆は騒めきたつ。

規格外な勇者ゲオルグの誕生を経て、ある者は彼に惹かれ、ある者は嫉んで牙を剥く事となる。

勇者クレマン、勇者候補パウル、そして規格外勇者ゲオルグの3名はそれぞれの思想・プライドを抱えて自分の信じる勇者道を歩き始める。

一方、勇者たちの誕生を遠くから眺めていた魔王は不敵に微笑み、静かに動き出す。


――――毎週『月・水・金』の17時30分前後に更新いたします(第1話のみ火曜にも掲載)

第1話 剛腕勇者ゲオルグ




「これより聖剣の儀を行う! 我こそは台座から聖剣を抜くことができると思う者は破邪の大岩に上がってくるがよい!」


 多くの兵士・魔術師を抱え、強固な城壁を持つ要塞都市ゴレガードの広場で立派な髭を携えた初老の大臣が人々に呼びかけている。


 今日、広場で行われている三聖剣祭さんせいけんさいというイベントには天下泰平・五穀豊穣を祈る目的があるが、やはり1番の目的は『聖剣を抜ける勇者を見つけること』だろう。


 隣国からも沢山の腕自慢や高貴な血筋を持つ者が続々と集まっている。かく言う俺も腕っぷしにはそれなりの自信がある。だから聖剣を抜いて勇者となる為に山奥の故郷から降りてきたわけだ。


 大臣の言う『破邪の大岩』は名前の通り神聖さを感じる直径30mほどの白い大岩だ。まるで隕石が地面にめり込んだかのように体積の半分ほどが埋まっていて、中心部分には長剣・大剣・細剣の3タイプの聖剣が大岩の上の台座に刺さっている。


 噂によると聖剣を手にした者は自身の魔力を大きく向上させ、聖剣を持っている時のみ使える聖剣スキルという固有能力を得られる場合もあるらしい。


 聖剣そのものにも浄化能力があったり、刀身の破損を自動修復する力もあるらしいが如何せん勇者が中々見つからないせいで情報もどこまで本当なのか分からない。


 だが、俺が抜くことさえ出来れば確かめることができる。失敗しないよう頑張らなければ……。とりあえず今は大剣タイプの聖剣の前に出来ている列に並ぶとしよう。


 俺が列の最後尾に並ぶと前に並んでいる数人の中年男たちが何か騒めき始めた。




「おい、あいつメチャクチャ強そうな体格だぞ……背も俺たちより頭2つは大きいし何者なんだ?」


「あ、あの人は数日前に突然ゴレガードの討伐ギルドに現れたゲオルグだ! 燃えるような赤黒い短髪……獅子のように鋭い眼光……そして筋骨隆々とした巨体、間違いない!」


「ゲ、ゲオルグって言えば10人がかりでも倒せなかった牛型の魔物フェンビーストを1人でやっつけたっていう化物ハンターじゃねぇか! あいつなら本当に聖剣を抜けるんじゃないか? 見た目に反して歳も27ぐらいで若いと聞いてるし、ゲオルグが勇者になれば将来安泰かもしれないぞ。10年ぶりの勇者再来も夢じゃないよな?」


「いや、どうだろうな? 聖剣を抜くには力や魔力も重要だが1番大事なのは――――」




 俺に聞こえる声量で好き勝手言っているが俺のやるべきことは聖剣に集中することのみだ。正直、老け顔だと言われるのはいつになっても傷つくものだが反発しても仕方がない、言わせておこう。


 そうこうしている内に列は着々と前に進んでいる。失敗した人々の背中を次々と見送っていると何やら広場全体が騒めきだした。


 多くの挑戦者と観衆が長剣タイプの聖剣に視線と指を向けている。釣られて俺も視線を向けると聖剣の前に立っていたのはゴレガード王国の王子クレマン・ゴレガードだった。


 俺はこれまで遠目から1,2回ほどクレマンを見かけたことがあるが相変わらず王族らしい品のある出で立ちだ。金色に輝く髪は柔らかく無造作に整えられていて、少し垂れた大きな目と深い青の瞳は中性的だ。


 やや高めの身長と引き締まった細めの体格は甘いマスクと相まって国中の女性から大人気らしい。むさくるしい男たちからヒソヒソ話をされる俺とは雲泥の差だ、正直ちょっと羨ましい。


 クレマンは黄色い大声援に対し手を振って応え、両手で聖剣を掴む。


「聖剣よ、僕に力を貸してくれ!」


 クレマンの少し高いハキハキとした声が広場に響く。すると聖剣の柄に刻まれている黒い正円の紋章が徐々に白色へと変貌していき、最後には円全体が白色に染まる。


 紋章が白一色になったと同時に聖剣から眩い光が溢れ出す。


 そして次の瞬間――――クレマンは見事台座から聖剣を引き抜き天へと掲げた。聖剣の刀身にはさっきまで刻まれていなかった光の文字が浮かび上がっており『聖剣グラム』と小さく古代語で刻まれている。


 本当に聖剣を抜く勇者が現れたことで広場の人々は声を失い驚いている。クレマンは聖剣を一振りすると剣先を斜め上に向け、大きく息を吸い込む。


三聖剣祭さんせいけんさいに集まった民よ。今、この瞬間僕は勇者となった。これから僕は聖剣グラムを振い、人々を脅かす魔物を一掃し、必ずや平和を作り出してみせる。どうか、最後の時まで僕を応援して欲しい!」




――――ワアアアアァァァァァ!




 耳が割れんばかりの歓声が広場に響き渡る。遂に勇者が現れたという事実は一民衆である俺も嬉しい限りだ。だが、聖剣は後2本残っている。大盛り上がりの中でチャレンジするのは気が引けるなぁ……と思っているとクレマンが口に人差し指を当てる。


「民よ、まだ聖剣に挑戦する者たちが残っている。騒いでくれる気持ちはありがたいが今は見守ろうではないか」


 クレマンの一声でハッとした民衆は一斉に黙り込む。これで挑戦しやすくなったものの、それでもクレマンの後ではやり辛い。


 俺の前に並んでいた者たちは次々と失敗していき、あっという間に俺の番が訪れた。


 想像以上にやり辛くなった挑戦ではあるがとにかくやるしかない! 俺は呼吸を整えて大剣タイプの聖剣を両手で掴む。すると聖剣の柄にある紋章がかなりゆっくりではあるものの白色に染まり始めた。


 触れている聖剣からは確かに強い魔力と聖なる力を感じる。この聖剣を手にすればどんなに強力なのだろうと胸が躍る。しかし、聖剣は非情にも動かず、紋章も3分の1程度しか光ってくれなかった。


 やはり俺には無理なのだろうか? 少しずつ諦めの気持ちが湧いてくる。普段なら諦め悪く粘る俺だが今回だけは諦めの気持ちが上回ってしまう理由があった。


 それは聖剣を抜く事が出来る条件だ。その条件は確定しているわけではないが何百年も前から研究されており、現在の研究報告だと『聖剣自体が人を見極めている説』が濃厚だ。


 より正確に言えば強い腕力・魔力……そして勇者の血を色濃く継いでいるか、この3点の総合値が勇者の資格に関わってくるのでは? と言われている。


 元々、3本の聖剣は三勇者さんゆうしゃと呼ばれる伝説の英雄が1本ずつ聖剣を抜いたことから始まったと歴史上では記されている。


 後の世代の勇者たちは全員が一定以上『初代勇者の血を濃く受け継いでいる者』と言われていて、現代でも濃い血脈を保つために特定の貴族たちは勇者の血を守る為の結婚をしているらしい。


 とはいえ何百年も前の勇者の血となれば当然大きく広がっているわけで時々は平民や貧民から勇者出る時もあるらしく俺にもちょっとぐらいはチャンスがあるのでは? と思ったのだが現実は厳しかったようだ。


 肩を落としている間に祭りを仕切っていた大臣が俺の近くに移動すると顔を覗き込む。


「あの有名な剛剣ゲオルグと言えども聖剣を抜くのは厳しかったか。どうだ、もう諦めるか?」


「ああ、流石に紋章が3分の1しか光らないとあっては諦めざるを……いや、やっぱりちょっと待ってくれ!」


 降参の言葉が出かかったところで俺の頭に故郷の思い出が流れ込む。山奥の故郷では俺の育った孤児院の院長や子供たち、そして村の皆が一旗あげてこいよ! と盛大に送り出してくれた。


 そんな彼らのことを思うと簡単にあきらめたくはない。聖剣の紋章が俺を認めてくれないなら別のアプローチでいくだけだ。俺は全身に力を込めて血管を浮かび上がらせ、両手で再び聖剣の柄を握る。


「力技で抜いてやるッ! うおおおぉぉぉおっっ!」


 まるで地面ごと木を引き抜くかのように俺は全身に力を入れる。踏ん張る足元は若干ヒビが入り、破邪の大岩そのものが揺れているのか大臣は尻もちをついて倒れてしまう。


 聖剣の紋章は相変わらず3分の1しか光ってはいないが手に伝わる感触からちょっとずつ聖剣が上に上がってきているのが分かる。


 あと少し……本当にあと少し踏ん張れば抜けそうな気がする。俺は次の数秒に全てを注ぎ込み、限界を超えるつもりで声を張り上げる。


「ぐああああぁぁっ! 出てきやがれェェッ!」


 血管が千切れるのではないかと思うほど叫んだまさにその時、俺の体は浮遊感に襲われる。その正体は地面から離れて俺の手に掲げられている聖剣によるものだった。


 遂に……遂に聖剣を抜く事が出来たんだ! っと喜んだのも束の間、俺は我が眼を疑う。なんと聖剣が台座ごと抜けてしまっているのだ。一応聖剣の持ち主とみとめてくれているのか刀身には『聖剣バルムンク』と刻まれている。


 とはいえ刀身の半分が極太の八角形の台座で埋もれた聖剣はもはや剣と言うよりハンマーの見た目をしてしまっているわけだが……。


 座ったまま聖剣を見上げる大臣は「あがが……こ、こんなこと、あ、あり得るのか?」と滑らかに喋れていない。


 俺は自他共に認める腕力自慢ではあるが、まさか本当に聖剣が抜けるとは思わなかった。きっと歴史上存在しないであろう台座付き聖剣を手に入れた俺は周りを見渡す。


 どうやら民衆はクレマンの時以上に言葉を失っている。まずい……このままでは俺は奇人扱いされてしまう。勇者とは認めませんと大臣に言われても困るから、ひとまずここは如何にも自信満々に成し遂げた雰囲気を出して民衆を味方につけておこう。


 俺はクレマンと同じように剣を頭上に掲げ、宣言する。


「俺も今日から勇者だ! 人を脅かす魔物は全部俺が蹴散らしてやる! みんな俺についてこい!」


「…………」


 これは言葉選びを間違えただろうか……。深夜の劇場かと思うぐらい静まり返った民衆を前にビビっていた俺だったが、それは杞憂に終わる。




――――す、すげぇぇっ! 力だけで勇者になりやがったぞ


――――聖剣が課す試練を力だけで乗り越えたのなら従来の勇者よりも凄い勇者になるんじゃないかしら?


――――こりゃあ、もしかしたらクレマンなんて比較にならないレベルの勇者になるかもしれんのぅ




 どうやら予想に反して民衆は盛り上がってくれたようだ。クレマンには悪いが民衆は「ゲオルグ! ゲオルグ!」とコールまであげてしまっている。それだけ昨今の魔物の襲撃を恐れていて強い勇者を求めていたということなのだろう。


 となると益々聖剣を取り上げられる訳にはいかない。さっさと広場を去ることにしよう。俺は尻もちをついたままの大臣に顔を向けて明言する。


「それじゃあ聖剣を貰っていくぜ」





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