目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第31話

 好きな場面をたくさん読んだからか、いい夢を見たかのようにスッキリとした目覚めで起きれたし、学園にもすんなりとたどり着けた。


 後はグラディス様に会ってお誘いするだけ。


 目覚めがすっきりだったせいか、今日は全部のことが上手くいきそうな気がする。


 昨日の夜お父様にグラディス様をディナーに誘いたいとお願いしたら、お父様はそわそわして使用人たちに掃除を念入りにするように指示を出していた。


 お母様もお母様でご自分であたしに提案してきたのを忘れたかのように、驚いた顔をしていたのにはあたしもびっくりしそうになったけど、まあ、喜んでいるみたいだしいいかと思い直した。


 そんなことを思い返しながらグラディス様の姿を探していたら、カリナの姿を見つけた。


「リザベル!」

「カリナ」


 向こうもあたしに気付いたみたいで、あたしが声を掛けるより先に声を掛けて来たので、カリナに近寄って行けばカリナもあたしの方に寄って来たので、簡単に挨拶を済ませて二人で校舎に向かう。


「こうやって話すのもあなたの婚約式以来ね」

「そうね」


 あの時マリアとは話せたけど、カリナとは全然喋れなかったわ。


 あの時はあたしもかなり混乱していたし、上手く話せなかったけど、最近ようやく落ち着いて来たからこうしてカリナと話せてよかったかも。


 カリナは今一人で、近くにステファン様の姿も見えない。これならカリナとゆっくり喋れそうね。


 マリアもいたら盛り上がれたのかもしれないけど、いないのだから仕方ないわ。何を話そうか。やっぱり本のこと? それともグラディス様のことを相談してみようかな。


 マリアは最近あたしが何かしでかすと思っているのか結構冷たいけど、カリナは違うはずだし大丈夫よね。


「今、大丈夫? 大丈夫なら校舎に入って話しましょう」

「ええ、平気よ」


 グラディス様を待っていようと思っていたけど、ステファン様のせいで中々カリナとは話せないから、話せるタイミングがあるのならカリナとも話をしたかったもの。


 二つ返事で頷く。


 グラディス様はいらっしゃらないし、また後でも問題ないわ。


 グラディス様を待つのを諦めてカリナと一緒に校舎に入ると、そのままカリナが受ける授業の教室へと向かう。


 サロンに行ってもよかったけど、ゆっくりと話していたら遅刻してしまうかもしれないもの。


 幸いカリナとあたしが受ける授業の教室はそんなに離れてないからカリナが受ける方の教室でもいいので。


「ようやくステファン様も飽きられたの?」

「ううん。今度式典があるでしょ?」

「式典?」


 教室にたどり着くとまだ他の人たちは教室にいかったので、あたしたちは適当に後ろの方の席の前と後ろに座り、あたしが後ろを向く形で座った。


 座ってすぐに聞いてみたら、思わぬ返事に何かあったっけ? と首を傾げてしまいそうになったけど、すぐに建国祭があったことを思い出す。


 建国祭は国内各地で盛大に一週間は祝う。その間学園もお休みだし、宿題もないので学生たちはのびのびと遊べる素晴らしいお祭りだ。


 貴族たちはお祭りの初日は王城に集まるが、その日以降は城で開かれるパーティーに参加するもよし、他の地域で行われるお祭りに出てもいい。


 しかも、各地でお祭りの雰囲気も違うから毎年どこの祭りに行くか、みんな楽しみにしている。


 だから、この間から使用人たちも忙しそうにしていたのかと納得する。


 あたしも去年はどこに行こうかと友達と話し合って行った。今年はグラディス様と婚約しているから、一応グラディス様を誘ってみよう。


 断られたら今年は家族で過ごそうかな。


 初日だけお城のパーティーに顔を出さないといけないけど、後は王都で過ごすも他の地域に遊びに行くもよし。


 最近色々あり過ぎたせいですっかり忘れていた。


 カリナにまで呆れられてしまうかと思ったけど、カリナは別のことを考えていたのか、たいして気にしてなさそうでホッとした。


「カリナは今年はどうするの?」

「初日のお城のパーティーは体調不良ってことにして、サボろうかと考えてるわ。二日目からはどこかのお祭りに参加しようかと思っているわ」

「サボっちゃうの?」


 そんなことして大丈夫なんだろうか?


 貴族たちは体調が悪くとも建国祭の最初の日はお城で過ごすことを一種のステータスのようにこぞって参加している。


 あたしもお城のパーティーに参加するのは当然だと思っていたからカリナのこの突然の発言にびっくり。


「ええ、最近あの方があたしのまわりをうろつくせいで、色んなところから睨まれているみたいなの。初日のパーティーは貴族が全員王城に集まるでしょ。学園だけで睨まれるだけならまだ堪えられるかもしれないけど、全ての貴族から睨まれるかもと思ったら出られる訳ないでしょ」


 全ての貴族から睨まれはしないんじゃない? あの方王族とは言え、脳ミソお花畑だし、王家のお荷物とまで言われているのだから。


 いくら地位が高くともあの方の突拍子のなさについていける人は少ないだろうから、多分生ぬるい視線を向けられるだけじゃない? と言いたかったけど、頭を抱えて悩んでいるカリナにあたしの言葉は届かなさそうだったので、適当に相づちを打ちながら話を聞いていると他の生徒たちがやって来たので話題を変える。


「じゃあ、二日目以降会ったらどこかで一緒に回りましょう」

「いいわね。マリアも一緒に行けたらいいけど、どうなるかしら?」


 そういえば最近マリアがよく一人でいるのを見かけることが増えたんだけど、アントニー様はどうなったのかしらと思っていたらいつの間にか国に戻っていたと知ってびっくりした。


 マリアはこのこと知ってるわよね? それなのにどうして教えてくれなかったんだろ。


 あたしが何かすると思われたとか?


 いくらあたしが結構やらかしているからって他国の王族にまではやらかしたりしないわよ。きっと。多分。


 考えている内に自分でも自信がなくなってきた。こんなんだからマリアはあたしに何も言わなかったのかも。


「マリアに会ったら一緒に回れたら回りましょうって伝えておいて」

「うん。分かった」

「あ、このことは一応マリア以外には言わないでね」


 邪魔されたくないというカリナに


 カリナが会ったらその時はあたしの分もお願いしていると、そろそろ授業が始まりそうな時間になってしまったので教室を出て、あたしが受ける授業の教室へと向かう。


 お祭り中にカリナとマリアに会う確率は低いだろうけど、それでも会えたら一緒に遊びたい。


 グラディス様も誘わないといけないから今年の建国祭はいつもより忙しくなりそうだわ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?