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第24話

 グランノワーズ家から中々返事が来なくてやきもきさせられたが、今日はグランノワーズ侯爵家に行く日だ。


 マリアと仲直りした後、マリアの家に行った日はグランノワーズ侯爵家からの返事は届いてなくてがっかりした。


 でも関わりのない貴族からの手紙で返事がすぐに来る方が稀なんだからとマリアに慰められてしまった。


 いつぐらいに来るのかしら? と待っていたら一週間ぐらい経ってから返事が来て、グラディス様は熱を出してしまい、屋敷に連れ戻して療養しているらしい。


 あたしずっとやきもきしていたのに、グラディス様は倒れてしまったらしい。


 あたしが酷いこと言ったせいかな? と一瞬思ったけど、それだとグラディス様の精神はかなり繊細ということになってしまう。


 自分のことをからかった相手を学園から追い出すぐらい徹底的に容赦なくやられないでしょう。


 だからたまたま偶然なのよ。うん。


 助けてもらったし、グラディス様に謝りたいこともあったのでお見舞いを希望するとあっさりと許可が降りた。


 マリアは用事があるとかで着いて来てくれなかったけど、そこまで甘え続けるのもあれなので、今日は一人できた。


 グランノワーズ侯爵家の執事はロマンスグレーのお髭を生やした素敵なおじさまだった。


「グラディス様のお体の調子は?」

「まだ熱はありますが、回復してきておりますよ」

「それはよかったです」

「ここのところ忙しかったみたいですし、成長期の心身の不調と重なって倒れられてしまったみたいで、旦那様も大層心配されて、あの小さな屋敷に今までのように暮らさせるのもどうかと言い出し、本邸に連れ戻したのですよ」

「そうなんですか」


 あの屋敷はその内売りに出すんだそう。


 グラディス様はそれでいいのかな? グラディス様を見ていて人の多いところとか好きじゃなさそうだったし、それにあそこではお菓子作りなさっているみたいだし。


 あたしに作った時だけじゃなく、グラディス様からたまに甘い匂いがしていることもあったからまだお菓子を作っているんだなぁ。てっきりあたしを見返すためにあの一回限りだと思っていたから、あれからお菓子作りが趣味になったんだなぁって思っていた。


 侯爵家に戻ったら趣味のお菓子作りも出来なくなってしまうんじゃないのかしら?


 侯爵家ともなれば厨房に足を踏み入れるようなことは許されないのでは? と心配してしまう。


 お見舞いのお花を預けてグラディス様のお部屋だと言われたお部屋に入る。


 もちろん執事のおじさまが中に案内してくれたのよ。


 あたし一人だったらノックして返事を待ってから入るわよ。


「お邪魔します」


 返事はなかった。


 執事のおじさまはあたしを案内するとすぐに出て行ってしまったので、この部屋にはあたしとグラディス様しかいないはずなのに、衣擦れ一つしない部屋は何となくもの寂しく感じる。


「グラディス様?」


 グラディス様の小さなお屋敷とは違ってグランノワーズ侯爵家の部屋はとても広い。


 多分あたしの部屋二つ分はありそう。


 壁に掛けられた風景画を横目に室内を見回す。ベッドには天蓋が掛けられて中に人がいるのかも分からない。


 中に人がいるんだったら声を掛けてくるわよね? さっきの執事もあたしも中に向かって声を掛けたのだし。


 いらっしゃらないのかな? 静まり返った部屋に不安になってくるけど、いないんだったら客間に案内するか、別の日にとなっていたはずだからいるはずなのよね?


 嫌われていると理解していたつもりだったけど、こんな風にされるほどあたしは酷いことをしていたのかと思い知らされて落ち込む。


 人のいない部屋にいつまでもいるのも居心地が悪いので退室しようかなと迷っていると天蓋付きのベッドの中で人が動いたような気がした。


「グラディス様?」


 いらっしゃったのかな?


 いるのなら返事をして欲しかったけど、あたしとは話をしたくないってこと?


 でも、それならそもそもお見舞いの許可なんて出さないと思うのよ。グラディス様がどういうつもりか分からないけど、具合が悪いのだから謝るだけ謝って長居せずに帰ろう。


「グラディス様あの、いらっしゃるんですよね? リザベルです。あたしグラディス様の体調が悪かったとは知らず、また助けていただいたのに、あのような態度を取ってしまい大変失礼なことをしてしまったことを心より反省いたします」


 天蓋の向こう側にいるグラディス様に向かって頭を下げる。


 天蓋があるから見えてないとは思うけど、やらないよりはマシだ。


「?」 


 そのままの姿勢でどれぐらい経ったか分からないけど、結構辛くなってきた。


 何か言って欲しいんだけど、どうしてグラディス様は何も言ってくださらないのかしら?


「あのぉ……」


 恐る恐る天蓋の向こう側にいるグラディス様に声を掛ける。


 そろそろ何か一言言って欲しいんだけど。どうして何も言ってくださらないのかしら?


 一言出て行けとか、二度と現れるなとか言われると思っていただけに、ほったらかしにされるのはちょっとどうしていいのか分からない。


 失礼なのは分かっているけど、ちょっとだけ天蓋の中を覗いてみようかしら。


 そろりそろりとベッドに近寄って行く。


 もし、グラディス様に怒られたとしても、最悪国外追放ぐらいで命は取られないと思うしかない。


「……グラディス様? え、ね、寝てる!?」


 ぐっすりと眠りこけるグラディス様の姿にせっかくかき集めた勇気が急速にしぼんでいくのが分かった。


 グラディス様は執事が言っていた通り熱があるのか、顔が赤く、額には汗がにじんでいる。


 まぶたはしっかりと閉じられているので、しばらくは起きなさそう。


 どうしよう。謝りに来たんだしグラディス様が起きるまで待っていた方がいいよね。


 ベッドサイドの机に水が入った桶と乾いた布が置かれていた。多分使用人が置いて行ったのだろう。


 グラディス様は時折寝返りを打つけど、たまに苦しそうにしていらっしゃる。


 汗を拭うぐらいならあたしでも出来る。


 グラディス様が起きないことを祈りながらそろそろと汗を拭うとグラディス様は少しホッとしたような顔をなさった。


 あたしはグラディス様が起きなかったことにホッとしつつ、グラディス様が起きるまで何をしてようかと迷う。


 さっきの執事を呼び戻して刺繍の道具でも借りようかな? グラディス様のお部屋にある本棚に入っている本は難しい本しか入ってないみたいで、あたしに多分無理だわ。


 しばらく考えてからあたしは執事のおじさまを探しに行ったが、探している間にあっという間に時間が経ってしまっていたらしく、この日は帰るように言われてしまった。


 まだ謝罪も出来てなかったのに!


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