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第23話

 昼休みは時間いっぱいカリナと一緒にいたお陰か、さっきよりは気分な上がってきた。


 持つべきものはやっぱり友人ね。


「リザベルが何をしたのかまでは知らないけど、何か誤解している可能性もあるんだから。また何かあったらあたしかマリアのところに来なさい。話を聞いてあげられるかは分からないけど、出来るだけ時間を作るようにするから」

「うん。ありがとう」


 そのマリアを怒らせちゃったんだけどね。


 カリナとは予鈴が鳴るギリギリまで一緒にいたけど、あたしが何かしたかは聞いて来なかった。


 多分それがカリナなりの優しさなんだろうけど、ちょっと聞いて欲しかったような。いえ、カリナも大変なのだからこれは自分でなんとかしなくちゃ。


 カリナは予鈴が鳴るとすぐにステファン様に捕まってしまった。あの時逃げ遅れたカリナの顔はとても憎々しげで、とても貴族の令嬢がする顔ではなかったとしか言えなかった。


 あの顔はステファン様に文句を言えない変わりの精一杯の抵抗だったのかもと思うと涙を禁じおえなかったわ。


 この間まであたしもあんな感じだったけど、グラディス様はいなくなったりすることもあったからまたマシだったのよね。


 ステファン様と比べるとまだグラディス様はいい人だったのかも。


 性格があれじゃなければ、いいお友達になれていたかもしれなかった。でも、あんなに失礼なことを言ってしまったんですもの、もうきっと友達にはなれないわよね。


 謝っても許してもらえないでしょうけど、それなら許してもらえるまで謝り続けるしかないわ。


 そのためにまずすることは、午後の授業が終わったらいの一番にマリアを探さなくちゃ。


 早く終われとそわそわしながら最後の授業のチャイムか鳴るのを待って教室を飛び出した。


 この時間ならまだ学園にいる。マリアが馬車に乗ってしまう前に捕まえなくちゃ。


 マリアの家の馬車は見た目は落ち着いた感じだけど、中の装飾は凝っているし、座り心地は抜群だ。


 そんな馬車は外観が地味なだけあって、他の生徒の馬車の中に埋もれて見つけにくい。


 公爵家らしく派手な外観にしておいて欲しいわ。


 あっちこっち探す。もしかしたらアントニー様の馬車に乗せてもらうのかもしれないけど、そうだったらマリアの家に行けばいい。


 途中でうちの馬車を見つけたので、御者にマリアを見つけたら呼んでちょうだいとお願いして再び馬車の間を縫って歩く。


 マリアがすぐに見つかるだろうと思っていたのに、中々見つからない。


 サロンの方から行くべきだったかしら?


 でも、アントニー様とご一緒だったら行けるかな? カリナとステファン様のところにも行けたんだから、アントニー様がいたって行けるはず。


 うん。大丈夫よ。


「あ、マリア!」

「リサ?」


 あちこち回っていたらマリアが現れた。近くにはアントニー様はいらっしゃらないみたいでホッとする。


 声を掛けたら驚いた顔をしていたけど、捕まってよかったわ。


 アントニー様は何か用事があっていらっしゃらないのかしら? まあ、いいわ。そんなことよりあたしにはしないといけないことがあるんだから。


「あの、マリア、昨日はごめんね。あれこれしてもらっていたのに、身勝手だって気付いて。今さら謝ったところで遅いかもしれないけど、謝りに来たの。ごめんなさい!」

「……」

「マリアがあたしに怒っているのは分かってるけど、どうしても謝りたかったの。マリアが迷惑だって言うのならもうマリアのところに行かないわ……本当にごめんなさい」

「ちょ、ちょと待って! いくらなんでも飛躍し過ぎじゃないの? 一回落ち着つきなさいよ」


 マリアの顔を見るのが怖くてがばりと頭を下げて一気にまくし立てたらマリアの焦ったような声が聞こえて、少しだけ頭を上げる。


「でも、怒ってないの?」

「怒ってなくはないけど、反省しているって言ってるんだからこれ以上怒る必要はないわ。というか、そろそろ頭を上げて。人が来ちゃうわ」


 マリアの答えに嬉しくなったけど、ここで喜んだら反省してないって思われる。


 先輩やグラディス様のことがなくたって大事な友人のマリアと喧嘩をしてしまったのだからこれ以上やらかさないようにしなくちゃ。


「本当? あたし昨日のこと以外にも色々とやらかしてるような気がして、昼休みにカリナに会ったからカリナのところにまで謝りに行ったのよ」

「カリナ困ったでしょうね。リサがあれこれ動き回るのはこれが初めてじゃないし、そもそもそこまでは怒ってなかったわよ」

「マリア」

「呆れてはいたけどね」


 呆れられるのと怒られるのってどっちがマシなんだろ?


 でも、ようやく許してもらえるのだからそんなのどっちでもいいわ。


「ありがとうマリア。もしもあたしがまた暴走しそうになったら教えてね」

「そうね。殴ってでも止めてあげるわ」

「お手柔らかにお願いするわ」


 痛いのは嫌よと怖々と告げれば、マリアは笑い出してしまった。


 それに釣られあたしも笑う。


 他の生徒が不思議そうな顔して通り過ぎて行くけど、そんなことも気にならないぐらいあたしたちは笑った。


「ふふ。でも、次やったら許さないけどね」

「……気をつけます」


 ひとしきり笑い合った後にひやりと言われて姿勢を正して返事をする。


 今許してもらえたのは今までの友情があったからで、これから先も関係を続けたくば、マリアを怒らせないように気をつけろということだろう。


 その笑みは普段よく見ている微笑みなんだけど、さっきの言葉を聞いた後だとかなり恐ろしくなる。


 思わずこくこくと頷けばマリアはにこりと微笑んだ。


「この後はどうする? 私の家に来る? もしかしたらグランノワーズ家から返事が届いているかもしれないけど」

「ええっと……」


 早くグラディス様に謝らないといけないから着いて行くべきなんだろう。


 カリナにはお昼休みに謝ったからこれ以上学園にいる必要はない。


 だったら着いて行くべきね。御者にマリアの家に行くから先に戻っているように伝えてマリアの家の馬車に乗り込む。


 やっぱりマリアの家の馬車は格別だわ。


 馬車の中で気まずい雰囲気になるのかと思ったけど、そんなことはなく普通にお話出来てホッとする。


 これから先も気をつけなくちゃとは思うものの、久しぶりの趣味の話はやっぱり楽しくて時間を忘れてマリアの家に泊まる。


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