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第22話

 昨日寝れなくて寝不足だったからか、夕飯も食べずにぐっすり寝ていたせいで遅刻ギリギリになってしまい、朝イチでマリアのことを見つけられなかったし、グラディス様もご自身が元々学んでいた授業に出られているのか今日もいらっしゃらない。


 ダメ元で先生にグラディス様を見かけしないのは元の授業に出られているからなのかと聞いてみたけど、先生も詳しいことを知らないのか困ったような顔をされてしまった。


 これからどうしようか。


 マリアには多分お昼に会えると思うからその時に謝るとして問題はグラディス様よね。


 謝ろうにしても姿が見えないんじゃ謝るに謝れない。


「あれ? 君は」

「? ……あ!」


 昨日のラウルス様だわ。


 今日も麗しい。ラウルス様の登場に思わずうっとりしてしまいそうになったけど、昨日のことを思い出してしまい、落ち着いた。


 謝るまでは恋は一旦置いておこうって思っていたのに、いざ本人を目の前にするとあっという間に胸が高鳴ってしまう。


「昨日は大変失礼しました」

「気にしなくていいよ。昨日は友達と一緒にいたみたいだけど、今日は独りなのかい?」

「取っている授業が違うので」


 あたしに興味を持ってくれた? でも、この聞き方だとマリアの方にも興味があってもおかしくないわ。


「それなら今日は一人? 私も今日は友人にフられてしまってね。もし、君さえよければお昼一緒に食べないかい?」

「いいんですか?」


 そんな場合じゃないのは分かっているけど、先輩の言葉に嬉しくなる。


「もちろん君が嫌ではなければ」

「そんなとんでもないです。あ、あの、あたしはリザベル・シュリアンっていいます。リサって呼んでください!」

「リサね。分かったリサ。お昼にまた会おう」

「はい!」


 やった!


 先輩と一緒にランチ出来るだけじゃなく、名前まで呼んでもらえてのぼせ上がりそうになったけど、昨日のことを忘れていた訳ではないので小さく喜ぶだけにしておいた。


 お昼休みはマリアを探そうと思っていたけど、約束をしてしまったんだもん。先輩を優先するべきよね。


 放課後家に行ったっていいんだし、もしかしたらお昼休みに見つかんない可能性もあるもんね。


 もし、途中で見つけたら先輩に詫びを入れて退席したっていいんだもの。今から心配なんてしてないで楽しいこと考えていた方が精神衛生上よっぽどいい。


 だけど、どうしてもやっぱり気になる。


 お昼になるとすぐに食堂に行き、先輩と待ち合わせ場所で街ながらマリアとグラディス様がいないかとそわそわしてしまう。


 今日姿が見えなければ、もう一度グラディス様のお屋敷に行ってみよう。例え本人の姿が見えなくても手紙を置いておけば、もしかしたら見てくださるかもしれないし。


「うーん。中々見つかんないなぁ」


 マリアは別の友達と食堂に来るのかも。あたしたちみたいに下級貴族って訳でもないから取り巻きが多い。


 それなのに、あたしたちのことを優先してくれていたのだからとても優遇されていたのよね。


 取り巻きの子たちとはロマンス小説の話が出来ないって言っていたけど、取り巻きの方たちからの嫌がらせもなかったのだから、マリアが何か言っていてくれていたのかも。


 そう考えると今までも色々あったはずなのに、後から考えると色々と失礼なことばっかりしているわよね。


 今度マリアにお礼もしないと、あ、あたしが色々と失礼なことしてるんだったら、もしかしたらカリナにも失礼なことしちゃっている? 


 今まで何も言われたことなかったけど、マリアだって昨日もあまり言わなかった。


 それだったら無意識にかなり失礼な態度を取っていたっておかしくはないよね。


 謝る人が増えてしまった。


 今まであたしってば色んな人に迷惑を掛けていたかもと思うと、せっかくの先輩のランチも味がしなくて楽しくなかったし、何を話したのかも全然覚えてなかった。


 せっかくの楽しいはずのランチは最後の方は先輩にずいぶんと心配掛けさせてしまったけど、本当のことを言う訳にはいかない。


 グラディス様とマリアを怒らせてしまったと伝えれば、どんな優しい人だって逃げて行くに決まっている。


 そんなことまで秘密にしておかないと誰のことも引き留められない自分に笑いたくなるけど、そんなみみっちい自分に嫌気がさすわ。


 物語の主人公ならこんな風に悩んだりしないんだろう。


 どれから手をつけるのが正解なんだろう。


 でも、ここで立ち止まっていたら話も続かないのだからやるしかない。とりあえずグラディス様は会えるか分からないからマリアから謝ろう。


 あたしが落ち込んでいたせいで居心地が悪くなったのか、食事を終えると早々に行ってしまった。


 昼休みが終わるまでまだ時間がある。


 マリアはどこにいるかしら?


 普段マリアがいるとしたらサロンか、図書館。今日は天気もいいからもしかしたら中庭にいる可能性もある。


 食堂ではマリアの姿は見えなかったから、一番近い中庭に行ってみようかしら。


「あ!」


 適当に歩いているとカリナの姿が見えた。カリナの隣にはステファン様がいらっしゃる。


 普段ならステファン様がいらっしゃったら逃げ出すところなんだけど、今日はなんとしてもカリナと話をしないといけない。


 なので、ステファン様がいるとか言って尻込みなんてしてられないわ。


「カリナ!」

「リザベル? ごめんなさいステファン様、友人が呼んでいますので失礼しますわ」

「ここで話せない話なのか?」


 ステファン様は不思議そうになさっていたけど、あたしにだって聞かれたくない話はあるので、申し訳ありませんと頭を下げる。


「女同士の話なので申し訳ありませんが、カリナをお借りします」

「それなら仕方ないな。だが、すぐに戻してくれ。こちらも用事があるんだ」

「ありがとうございます」


 カリナは物じゃないのに、そんな言い方するだなんてとカチンと来なくもなかったけど、今はそれどころじゃないし、マリアも探さなくちゃいけないからステファン様に軽く頭を下げてからカリナを連れてステファン様の見えない位置まで移動する。


「どうしたのいきなり? 今までステファン様に睨まれたくないって逃げていたのに」

「それはごめん」


 やっぱり言われるよね。


 そのことを詫びつつ本題に入る。


「あのね、ここ数日で色々とやらかしちゃって反省することが多くて、もしかしたら今までもみんなに迷惑掛けちゃっていたかもと思ったらいてもたってもいられなくて」

「まさかそれで謝りに来たの?」

「うん。カリナ今までごめんね」

「別にリザベルが気にするようなことはなかったわよ。それよりステファン様の方よ。今戻ったら昼休み逃げ切れなくなっちゃうからギリギリまで一緒にいて」


 怒ってはなさそうでホッとしたけど、ステファン様ほったらかしはそれはそれで大丈夫なのかな?




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