グラディス様を怒らせたかもしれないとお父様に告げた瞬間、お父様は泡を吹いて倒れてしまった。
分かる。あたしが聞かされる側だったら同じように卒倒していたかもしれないもん。
でも、そのまま卒倒され続ける訳にはいかないので、慌てて医者を呼んだり、お父様をベッドに寝かせたりと慌ただしかったけど、話をしなくちゃいけないので、医者が帰った後にお父様のお見舞いのフリをしてお父様の寝室に入った。
「リサ……」
「お父様さっきは驚かせてごめんなさい」
「ああ、いや、もう済んだことだ。今は彼の怒りを鎮める方が前月末だ。グラディス君はどれぐらい怒っていた?」
「分からない。言いたいことだけ言って逃げて来ちゃったから」
そういえば、マリアと別れた後教室に行ったけど、グラディス様のお姿は見当たらなかった。
多分、元々受けていらした授業の方に行ったんだと思うけど。
そう伝えるとお父様は頭を抱えてしまった。
分かる。あたしも学園でそうなっていたから。一応グラディス様のことを探そうと思ったのよ?
でも、グラディス様のお姿は見当たらなくて。
それに、元々の授業は被ってないのは知っていたけど、グラディス様が取っていた授業なんて興味なかったから知らないから早々に詰んだ。
先生に聞いてみたんだけど、はぐらかされてしまった。
それたら、グラディス様のお屋敷に行ってみればいいと思って行ってみたんだけど、留守だったのか人気はなかった。
だからお父様に相談したんだけど、倒れてしまったから相談する相手を間違えたかも。
でも、これがお母様だったらしこたま怒られて、グラディス様に許してもらえるまで戻って来るなと怒られるだろう。
その点お父様の方が甘いから怒られないと思ったんだけど、まさか倒れてしまうとは思ってなかったからこれからどうしよう。
やっぱり謝った方がいいよね。
グラディス様のお屋敷にいないのだったらどこに行ったら会える? グランノワーズ侯爵家?
無理だ。
格上の家だし、うちにはグランノワーズ侯爵家へのツテはない。マリアに頼めばとりなしてくれるだろうけど、そうしたらこのことを言わなくちゃいけないからきっと呆れられてしまうかも。
それは、ちょっと恥ずかしいから避けたいけど、やってしまった以上は避けては通れないわよね。
とりあえずこれ以上はお父様に負担を掛けさせたら、このまま亡くなってしまうかもしれないので、一旦話は終了にしてマリアの家に向かう。
謝るんだったら早い方がいい。
幸いマリアはすぐに捕まってくれた。
今日はアントニー様はお忙しいのかな?
でもまあ、あたしにとってはマリアと話せるからラッキーだ。アントニー様がいらっしゃったらマリアと話せなかったもん。
「リサどうしたの?」
「あ、うん。学園ではありがとうね」
マリアはすでにゆったりとしたドレスに着替えていた。あたしは家に帰ってからすぐにお父様に報告しに行ったからまだ制服のままだったことにちょっぴり恥ずかしくなった。
「学園? ああ、朝ね。あなたあの後すごくぼんやりしたり、急に青くなったりで大丈夫かと心配していたのよ。まだ安静にしておいた方がよかったんじゃないの?」
「それは平気だよ。それより聞いて欲しいことがあるんだけど、今大丈夫?」
「ええ、もちろんよ。最近はようやく時間も出来たから」
「そうなのね」
ちょっと聞いてみたいような気もしたけど、今はそれどころじゃない。
今朝グラディス様にやらかしてしまったことを相談すればマリアは頭を抱えてしまった。
「なんとかならないかな?」
「……」
「グラディス様のお屋敷にも行ってみたんだけど、留守みたいで。あたしにはグランノワーズ侯爵家とのツテがないからマリアのツテで何とかならない?」
マリアはお父様みたいに卒倒はしなかったけど、顔色は悪いのでやっぱり無理なのかもしれない。
「お願いマリア! マリアだけが頼りなの!」
このままだと我が家は滅亡まっしぐらよ。
自分がやらかしたことだけど、だいぶ酷いことした自覚はあるわよ。マリアだけが頼みの綱なのよと必死こいて拝みたおす。
「……グラディス様には私から連絡しておくから今日のところは戻りなさい」
「マリア!」
「……やっと厄介なことが一つ片付いたと思ったのに、どうしてリサまでも面倒なこと持ってくるのよ……」
「ご、ごめんね」
マリアの言う厄介事が何かは分からないけど、あたしが厄介なことを持ち込んだのは事実だから謝るしか出来ない。
「とりあえず今日は帰りなさい。何かあれば私から連絡するから」
「お願いします」
マリアの家の馬車で送ってもらい家に戻る。
さすが公爵家だけあって馬車の乗り心地はかなりよかった。
うちの家も馬車いいやつに変えて欲しいなぁとは思うものの、先にグラディス様の事を片付けない限りはそんなこと言い出せないわよね。
とりあえずお父様にマリアにお願いしてきたことを伝えて、何とか首の皮一枚繋がっていることを伝えて安心させる。
お父様はそれを聞いて公爵家に借りを作ったことを気になさっていたけど、ツテがないんだから仕方ないと諦めてもらって部屋に戻る。
マリアにはああ言われたけど、家に戻って来たらあたしも何かした方がいいんじゃないかって思えてきた。
グラディス様に話を伝えてくれるのはマリアがしてくれるらしいから、そこはお任せするとしてあたしは何をしよう。
手紙を書いて謝罪? 前にグラディス様が作ってくれたお菓子みたいにあたしもどこかのパティシエに弟子入りしてグラディス様にお菓子を作る?
でも、あたしなんかが作ったものを受け取ってくれるか分からない。
それにマリアが何とかしてくれるって言ってたけど、何とかならなかったらもっと怒りを買ってしまう可能性だってある。
「やっぱり大人しくしているしかないのかな……」
待っているだけの時間は落ち着かない。何かしていないと落ち着かない。
教会にでも祈りに行こうかしら? でも、祈っても落ち着かないような気がするわ。
ふと時計を見れば、いつもならもうとっくに寝ている時間だった。
いくら落ち着かないからと言ってこんな時間まで起きているだなんてお肌に悪い。急いで寝る支度をしてベッドに潜り込んだけれど、この日は中々寝つけなかった。