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第18話

 目を覚ましたら見慣れた天井に慌てて起き上がればくらりと目眩がした。


「お嬢様! 大丈夫ですか? まだ横になってた方がいいですよ。今お医者様を呼んで来ますから」

「えっ、あ、ちょっと! ……行っちゃった」


 慌ててすっ飛んで来た使用人に何があったのか分からないからどういうことか聞きたかったのに、使用人は慌てて部屋から出て行ってしまった。


 あたしさっきまでどっかの森で眠ってたんじゃないの?


 あたしの祈りが神様に通じて戻ってこれた?


 一瞬もしかしたらワンチャン夢オチだったりしないかなと思ったけど、この疲労感と度を越した空腹感があれは現実だったと突き付けてくる。


 でも、自力で人のいるところまで戻った記憶はないし、どうやって家のベッドにたどり着いたのかわからないない。


 さっきの使用人が戻って来たら何か分かるかもと思ったのに、中々戻って来ないし、疲れていたこともあって再び眠ってしまった。


 次に起きた時は両親があたしのことを不安そうに覗き込んでいて、びっくりしてそのまま気絶しそうになった。


 でも、何とか踏ん張ってあたしがどうやってこの家に戻って来たのかとか、どれぐらい寝ていたのかとか色々と聞きたいことはあったんだけど、何日も野宿と空腹のせいで熱が出ていたらしくて、お父様から説明があったあんまり覚えてなかった。


 久しぶりに食べた胃に優しいスープに癒されておかわりしたくなったけど、医者にまだおかわりは駄目だと止められてしまった。


 何日も空腹だったからいっぱい食べると体がびっくりしちゃうらしいけど、あたしはお腹が空いているのに、ちょっと悲しかった。


 体調がよくなったら絶対に沢山食べてやると決意したわよ。


 でも、その前に熱が下がってすぐに改めてお父様に何がどうなっていたのか聞きに行った。


 そっちも気になっていたからね。


「もう体は大丈夫なのか?」

「何日寝てたと思っているのよ」


 お父様はちょっとびっくりしているみたいだったけど、あたしが覚えてる限りでも一週間近くベッドにいたような気がするから全くもって平気だと答える。


 何日もベッドにいたからもうすっかり飽きた。


 今は家の中ぐらいなら歩いても大丈夫だと言われているしと続ければ、お父様は少し安心したような顔になった。


 うちのお父様ポール・シュリアンは娘からしたらちょっと天然な気がする人だけど、商人としての顔は抜け目のない人だと言われている。


 自分が得するように動いているからそれを嫌がる人はいるけど、お父様はちゃんと領民のことも考えているから悪徳と言われるようなことはしてないと思うからただのやっかみだと思っている。


 そう思うのは娘の欲目なのかしら?


 でも、まあ、他の中年貴族みたいにでっぷり肥えている訳でもないし、見た目もそこそこいいからそっちでもやっかみはあるのかもしれないわね。


 上位貴族は太ってない人も多いけど、家格の近い家は太ったおじさんは結構いるから。


 他の理由も上げるなら、商売をやっているから下位貴族の中でもそれなりに顔も広いからね。


 うちの商売は結構手広くて食品から宝石、ドレスや家具、それから小物なんかも扱っている。欲しいものがあれば、うちで買って行けばとりあえず間違いはないわよ。


 お客さん増えてあたしのお小遣いアップして欲しい。


 うん。あたしが誘拐された時、お父様関係の何かだと悩んだっておかしくはなかったのよね。あれだけ手広く商売をしているから逆恨みされたっておかしくはないもの。


 実際はグラディス様関係のせいだったけどね。


 思い出してムカムカしてきた。


 グラディス様には会いたくはないけど、文句の一つや二つは言ってやりたい。


 あ、でも、あの子たちに直接言った方がいいわよね。お父様に話して捕まえてもらわなくちゃ。


「そうか。でも、熱は長引いたからあまり無理はするなよ」

「分かっているわ」


 学園に通うのはもうちょっと先にした方がと言われているけど、あたしはお父様に話を聞いて、もう少し話を聞いてから他の国に行きたいと相談するつもりよ。


 グラディス様のせいでこうなったんだもの。いくらお父様がグラディス様に甘い顔をしたって娘が危険な目に合ったんだもん。さすがに娘の味方をしてくれるはずだわ。


「それより……」  

「ああ、そうだったな。あの日お前が中々戻って来ないし、御者も学内にはいないとか意味が分からないことを言い出したもんだから、一家総出で探したけど、中々見つからなくてどうしたものかと迷っていたらいつの間にかグラディス君が指揮を取ってあっという間に犯人を捕まえてくれてね」


 あたしはあの日あったことをお父様に話せば、お父様はあたしが知らないことを教えてくれた。


「えっ?! グラディス様が!?」

「そうだよ。だから、今度会った時はお礼しておくんだよ」

「あ、うん……」


 お父様はあたしの驚きに気付いてるのか気付いてないのか、もしかしたら気付いたとしても抜け目のないお父様のことだからわざと無視しているだけかも。


 ていうか、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。


 助けてくれたのがグラディス様だなんて。


 このまま逃げ出そうと考えていたのに、お礼をしないといけないだなんてショック過ぎるんだけど。


 あんまりにもショックが大きくて、その後はお父様のお話を聞いてなかったせいで、お父様を心配させてしまい、お医者様を呼ばれてしまったりと大変だったのに、グラディス様から手紙が届いてしまいどうしようと頭を抱えるハメになってしまった。


 お父様に話をしようと思ったのに、グラディス様が助けてくれたという話が衝撃過ぎて何を話すのかを頭から抜け落ちてしまったあたしはグラディス様からの手紙という新たな強敵にどうするのかと頭を悩ませることになるとは。


 これは何かの罰ゲームか何かなのかしら?


 だったらあたしは先に何かのゲームに参加してないといけないけど、生憎あたしにはそんなゲームに参加した記憶なんてものはない。


 それなのに、罰ゲームだけはしっかりとあるだなんて、あたしが何をしたっていうのか。


 手紙にはあたしの体調を心配している旨しか書かれてなかったので、返事はしやすいとは思う。


 だけど、グラディス様のせいでこうなったんだからとひねくれたあたしが手紙を書きたくないと騒ぎたてる。


 もうグラディス様からの手紙を見なかったことにして、逃走の準備をしようかな。


 いや、でも、助けてもらっておいてお礼の一つも言わないのはどうなの? と悩んでいる内に時間だけが進んで行き、医者にはそろそろ学園に通ってもいいと許可された。


 学園に行けばグラディス様に会うことになる。


 結局手紙は書いてないし、会ったら会ったでお礼を言わなくちゃいけなくなるよね。


 どうやったらグラディス様を回避出来るかしら?



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