「?」
おかしい。
いつもならとっくにリザベルが来ている時間なのに、まだ学園に来てない。
校門の辺りで待っていようか。
学園なんて前は義務で通っていただけで興味はなかったけど、今はリザベルがいるから通っている。
リザベルがいなければ、授業に出る意味もそんなにない。
彼女の表情はいつもコロコロと変わって面白く、飽きない。
僕の前では基本緊張しているのに、食べ物があれば簡単に頬を緩ませ、幸せそうに食べる。
僕は食事には興味なかったけど、彼女があんまりにも幸せそうに食べるから、僕も少しだけ食べる物に興味を持つようにしたけど、リザベルがいなければ味なんて分からない。
小さい頃、一度だけリザベルに出会ったことがある。
リザベルは多分僕に会ったことなんて覚えてないんだろうけど、そんなこと構うものか。
僕のことを好きにさせればいいだけなのだからと思っていたが、先行した噂のせいで、それも思うようにはいかない。
元々平民だったことをしつこくからかって来た馬鹿のせいでこうなってしまった。
あの馬鹿を社会的に抹殺すれば同じようなことをしてくる馬鹿がいなくなるだろうと思って行動してみたのだが、少々やり過ぎてしまったらしく、人が近づいて来なくなった。
そのことは別にいい。僕だってこんなところに馴れ合いに来た訳じゃないし、あの時はリザベルがこの学園に通ってるかなんて分からなかった。
僕と出会った時、リザベルは迷子になっていたらしく、僕を見つけたリザベルは何故かは分からないけど、安心したように泣き出して戸惑った。
普通の人なら僕みたいな孤児を見て嫌な顔をするのが常だったから、彼女みたいな反応は初めてだった。
ちょっと年上ぐらいかなとは思っていたけど、僕と違ってどんくさくて、泣き虫で表情がコロコロ変わって、僕とは違う生き物みたいで戸惑ったけど、あの時僕に向けられた笑顔がいつまで経っても忘れられなくて、学園で再会した時は奇跡ってあるんだなとしみじみ思ったものだ。
リザベルはあの頃より成長して、より可憐になっていた。
リザベルとその友人は学園中でもトップクラスに可愛いと噂になっていたが、いつも三人で楽しそうに話していたから、話し掛けるチャンスは中々なかったが、運よく転んでいるところを見つけてそのまま声を掛けれた。
あの時のチャンスを逃してたまるかと学長を脅して、彼女と同じ授業に出て、彼女の父親には新しい事業の話をすれば、簡単に家に自由に出入りしていいと許可をもらえた。
彼女の意見を無視する形になってしまったが、これだけ彼女の生活に食い込めば、さすがにリザベルでも僕のことを意識してくれると思ったのに、さらに警戒されてしまったような気がする。
おかしいな。彼女の好きな本に出てくる男たちはヒロインのことをぐいぐいと囲い込んでいたんだけど、好みじゃなかったのか?
彼女の使用人に金を払ってまで得た情報だったのに。
違うんだったら彼女はどんな男が好きなのか。本を見たってよく分からない。だったら彼女が好きな物を作ってみようとしたけど、失敗して彼女には逃げられてしまった。
何とかリベンジはしたものの、彼女が僕が作ったお菓子に興味を持つことはなかった。
あれから何度か作ってリザベルが来ることを期待しているのに、リザベルが自分から僕の屋敷に来ることがないのが悪いのか。
一度だけリザベルから来てくれたことがあるが、用件だけ済ませて帰ってしまった。
手紙ねえ。
僕のことで話しがあるっていう内容だったけど、リザベルは行ってないという。
それはつまり僕には興味がないってことだと思い知らされた。だけど、そんなことぐらいで諦められているんだったらリザベルのことなんてとっくの昔に忘れているよ。
リザベルのお願いだから一応は叶えてあげるけどね。
手紙の差出人を見つけてこれを送らないようにすればいいんだろ。簡単じゃないか。
念のため僕の養父にリザベルに手紙を送ったか? と確認してみたが、出してないとのこと。
だとすると差出人はここの生徒か、元々僕を知っていた人間ということになる。
元々の暮らしでそれなりに悪いことなんかもしてきたから、もしかしたらそっち方面で僕がリザベルに惚れているのがバレて手を出そうとしているのかもしれない。
そうすると数があまりにも数が多すぎる。犯人の目星がつかないんだが、リザベルにやると言った手前やらないという選択肢はない。
泣きながら頼んで来たリザベルに(泣いてない)頼まれたことを完遂して、リザベルに褒めて欲しい。いや、もしかしたらこれから僕を頼りにしてくれるかもしれない。
そうなったらリザベルと婚約だって夢じゃない。
将来は僕だってリザベルにカッコいいって言われるようになるのだから(妄想)そのためには前よりも食べるようにしたし、興味もなかった鍛練も始めた。
あと数年もすれば、リザベルより背も高くなるだろうし、僕の地位だって磐石になるだろう。
もし、リザベルが侯爵家が無理だと言えば、僕が婿に行けばいいだけだ。
侯爵だって、血の繋がらない人間が継ぐより多少血が薄くとも親戚が継いだ方がいいとこれから先思わないとも言えないから。
あの方は実力重視だ。
僕が使えないと分かった瞬間に切り捨てる可能性だってある。
ご自分の身内に実力のある者がいないからと、たまたま目に入った僕を気まぐれで拾ったようなものだし。
リザベルが僕のことを好きになってくれるまでに僕の地位を確立しなければならない。
とりあえず、リザベルの屋敷の辺りには人を雇って警備を強化しているが、手紙は届き続けるらしい。
手紙の待ち合わせ場所に人をやっても人が出てくる様子もなく、どこかで見張っている可能性もあるが、それらしい人影もなかった。
いたずらでいいと思うけど、何度も僕の目を潜ってリザベルに届けられるのが気になる。
今日リザベルが来たらもう一度手紙が届き出した頃の話を聞きたいのだが、いつ来るのだろうかと待っていたのに、その日リザベルが学園に現れることがなく、風邪でも引いたのかとお見舞いにリザベルの屋敷に行った。
「いない?」
「はい。昨日御者の話しではお嬢様を学園に迎えに行ったものの、いつまで経ってもお嬢様が出てくることはなく、学園も夜になって閉鎖されてしまい困ったそうで、学園側にお嬢様が出てきてないことを伝えたのですが、あちらからは残っている生徒はいないとのことでした」
「どうしてそれを僕に伝えなかった」
「は? いえ、夜遅い時間でしたし、我が家の使用人総出で今お嬢様を探しているところです」
慌てたような執事の言い訳にそれ以上聞いてる暇はなかった。
何でリザベルがいなくなった?
昨日までは普通だった。
早く犯人を捕まえて欲しいとお願いしてくるリザベルに言い含められて、先に学園を出たのが悪かった。
リザベルと一緒にいると決めたばかりなのに、どうして僕はあの時リザベルに言われるがまま先に出発してしまったんだ。
僕の馬鹿!
慌てて学園に戻って昨日御者が話を聞いたという職員を脅し、学園の隅々まで探したのにリザベルの姿を見つけることが出来なかった。