目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第15話

 あの後、あたしはいつの間にか眠っていたらしく、小鳥の鳴き声で清々しく目が覚めたと言いたいところだったけど、体はあちこち痛いし、野宿だったせいで体が冷えきっちゃっていた。


 こんなんじゃ風邪引いちゃうじゃないと怒ったけど、怒ったところで彼女たちが戻って来るかなんて分からない。


 だったらさっさとここを去ってしまった方が安全だと歩き出したものの、あたしは完全に迷った。


 迷ってしまったんだ。どこの森かもわからないない場所で。こんなことになるだなんて、誰が思うだろうか。


 あたしは思わなかったわよ。すぐに家に帰れると思っていたんだもの。


 帰ってお父様に今回の事を伝えて、後はあの子たちが捕まるのを待ってればいいって思ってたもの。


 こんな風に迷ったのなら、元の倉庫に戻ればいいと思うかもしれないけど、その倉庫の場所さえもとっくに見失って森の中をさ迷うしかなくて、困っている。


 大声を上げてみたこともあったけど、近くに人気はないのか誰かが助けに来てくれることはなく、あっという間に数日が過ぎてしまった。


 野生動物に遭遇しなかったのだけはよかったけど、人に出くわさなかったのは辛かった。


 しかも何日も野宿していたのが悪かったのか、すっかり体調を崩してしまい、起き上がれそうにもない。


 ここって王都の近くの森だと思っていたんだけど、違ったのかな?


 場所とか分からないから何とも言えないのがもどかしい。


 あの時明るかったから勘違いしただけで、気絶させられた時から既に数日が経過していたとかもあり得たのかしら?


 あの時に色々と聞いておけばよかったんだろうけど、あの時は起きたばかりで何がなんたか分かってなかったってのもあったし、あっちもあたしの話を聞こうなんて思ってなさそうだったから、話なんて聞けなかったでしょうけどね。


 ここに来るまでに途中で小さな木の実がなっているのを見つけたけど、あんなのでお腹が膨れる訳もなく、今日も今日とてあたしはお腹を空かせている。


 今は動きたくなくて、その辺の地面に転がってるんだけど、思考が段々と暗い方へと向かってってるような気がする。


 無理やりポジティブになろうとしたけど、やっぱ無理。


 何でこんなことになってるんだろ。あたしの知ってる話だと誰かがすぐに助けてくれたりするはずなのに、おかし過ぎじゃない?


 何だかむしゃくしゃしてきたわ。


 頭の中であの子たちをぼこぼこにして多少すっきりするものの、完全に気持ちが晴れた訳ではない。


 どうしてあたしがこんな目に合わなくちゃいけないのよ。これが全部グラディス様に関わってしまったせいだと考えると何もかも嫌になってくる。


 お父様たちどうしてるかな。


 あたしが戻って来ないことで、何かあったと探してくれてるならいいんだけど。何日も戻ってなければいくらなんでも探してくれてるよね。


 カリナとマリアも心配してくれてるかな?


 二人共忙しいみたいだから気付いてない可能性だってあるわね。


「ていうか、お腹空き過ぎて何も考えたくない……」


 これもグラディス様と関わってしまったせいだと考えると、あの時言葉が分からないからと諦めていた国外逃亡でも何でもするべきだったんだわ。


 そう考えたらじわりと涙が浮かんできた。


 無事に戻れるか分からないけど、戻れたらどこの国に行くかとか本格的に考えよう。


 そのために先ずは家に帰ることが先決だけど、お腹が空き過ぎて動けそうにない。


 あの木の実がもっと大きくてお腹いっぱい食べられたらよかったのに。


 うだうだ考えたって仕方ないのは分かってるんだけど、動きたくないからか暇になった頭が嫌な想像を膨らませて、止まらなくなりそう。


 家に帰ってからおいしい物をたくさん食べてお風呂にも入って、好きな本を読んでと考えた辺りでむなしくなってきたから止めた。


 だって、あたしは今、どこかの森の中で迷子になって転がってるんだから。


 どうして助けが来ないのか分からない。


 お父様たち娘が何日も戻って来ないのを何とも思わないの? それともあの子たちが上手く取り繕ってあたしの不在を誤魔化しているとか?


 その辺のことはよく分からない。


 こんなことになるのなら、下手に動かずあの倉庫で人が来るのを待っていた方がよかったなぁ。


 後先考えずに行動するんじゃなかったよ。


 倉庫に戻れるのなら戻りたいけど、自分がどこをどう通ったのかも皆目見当もつかないせいで、戻れない。


 というか、戻れるんだったらとっくに戻れてるわよ。


 何であたしはあの時、あの倉庫から逃げ出そうとしたんだろ。今さら後悔したって遅いのは分かっているけど、あそこに戻れたらと思わなくもない。


 あのままあそこにいたら、様子を見に来たあの子たちを倉庫に閉じ込めて、あの子たちの馬車を奪うとかもありだったと思う。


 ああ、でも、うだうだと考えたところで過去が変わる訳ない。


 とりあえずうだうだ考えるより、食べ物を探した方がいい。


 そういえば、グラディス様は昔、路上生活をしてたんだっけ。


 今のあたしはその頃のグラディス様とそう変わりないと思うと、あのまま路上生活でもよかったと言えるグラディス様は強すぎると思う。


 何で路上生活でも平気だって言えたんだろ。


 あたしは数日似たような状況になってもう沢山だってなってるもの。


 あたしにはこんな過酷なこと無理だったわ。神様お願いしますからこの状況から一刻も早くあたしをお救いくださいませ。


 神様に祈りを捧げてからこれからどうなるか分からないけど、戻れるのなら、グラディス様とは縁を切るつもりだけど、最後に会うことがあったらもう少し優しくしてあげようかな。


 それにしてもお腹空いた。もう一歩も動けないから食べ物も探しに行けないや。


 あははと笑おうとしたけど、そんな体力なんて残ってなくて、もう起きているのもしんどい。


 眠っていたら空腹も感じないし、眠っちゃおっかな。


 ぼんやりと空を見上げてるとあたしの心情とは違ってのどかで、こういう日はピクニックとかしたいなって思っている内にうとうとし始めた。


 夢の世界に行って目が覚めたら美味しい物沢山食べたいなぁ。


「リザベル!」


 眠りに落ちる寸前、誰かの声が聞こえたような気がするけど、眠すぎたので聞こえないフリをして眠りに落ちた。


 起きたらお腹いっぱいご馳走を食べられるといいな。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?