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第14話

「ふぬぅ……」


 倉庫の中でちょうどいい出っ張り。倉庫の中にある箱が破れて縄を切るのにちょうどいい場所があったため、そこに移動しようとしたんだけど、椅子に座らさせられていたせいで、椅子ごとスッ転んでしまった。


「いったぁ……」


 痛いけど、一刻も早くここから逃げ出すためなら、そんなの気にしてられないわ。


 というか、あたし転んで結構派手な音がしたのに、誰も見に来ないところを見ると、やっぱり見張りなんていないっぽい。


 もたもたしながら起き上がろうとするが、無理だ。芋虫みたいに這って行くしかないわこれ。


 どうしてあたしがこんな目に合わなくちゃいけないのよ!


 グラディス様とは関係ないって言ったのに、どうして信じてくれなかったのかも意味分かんないし、何だったんだろあの子たち。


 あたしが何で反省する必要があるっていうのよ。もしかしてあれかな? グラディス様の前で転んでしまって顔と名前を覚えられてしまったってこと?


 それだったら心当たりあるわ。ごめんね。


 でも、そんなことで名前と顔を覚えてもらえるのなら彼女たちも転んで覚えてもらえばいいじゃないの。あたしを誘拐するんじゃなくてさ。


 それと、あたしがもたもたしている間に日は落ちてしまったみたいで、今は月明かりを頼りに行動するしかないんだけど、月明かりが少なくて殆ど何も見えない。


 記憶を頼りに出っ張りがあると思われる場所にたどり着くも、記憶の位置と実際にあるはずの出っ張りが違う場所にあるのか、中々上手く引っかからない。


 何であの子たちは後ろ手に縛って行ったのよと文句を言いたくなる。


 余計なことする暇があるんだったらグラディス様に覚えてもらう努力とかしなさいよ。


 転んだだけで覚えてもらえるんだから簡単だと思うんだけどなぁ。


 あの子たちプライドが高そうだったから、そんなことしなさそうね。


「やった!」


 そんなことを考えながら、ああでもないこうでもないとやっている内に上手く引っかかたみたいで、腕が下がらなくなった。よかったこれで芋虫状態から抜け出せる。


 縄を切る時に何回か手とか腕に当たって痛い。多分怪我したかもしれないけど、それよりもここから逃げる方が先決よ。


 怪我してるのなら、ここに閉じ込められたことも含めて文句を言えばいいんだもの。


 絶対にあの三人見つけ出してとっちめてやるんだから。あたしには公爵令嬢の友達がいるんだから絶対に謝らせてみせるわ!


「ていうか、中々切れないのなんでよ」


 こういうのって簡単に切れると思っていたけど、しっかり縛ってあるのか中々ほどけなくてイライラする。


 どれぐらい格闘したのか分からないけど、かなり時間は掛かったと思う。だけど、縄が切れた時は達成感がひとしおだった。


「ふふ これで出れるわ!」


 トイレの心配をしなくて済んだ。後は家に帰るだけね。


 すっかり夜になってしまっているからみんな心配しているはず。


 お腹も空いているし、早く戻ってみんなを安心させてあげなくちゃ。


「ん?」


 倉庫のドアを開けて外に出ようとしたら、鍵が掛かっているのか何度ドアノブを回しても開きそうにない。何で? あの子たち鍵を閉めてしまった訳?


 意味分かんない。


 記憶をたどってみたけど、全く分からない。


 他の出入口はあるのかな? 暗いからあんまり分からないけど、多分あると信じて倉庫内をちょこまかと動き回る。


 あちこちぶつかりながらどこかに他の出入口はないかとさ迷いあるくものの、小さい倉庫なのかそれらしい場所は見当たらなかった。


 破れてる壁破ったら出られないかしら?


 ちょっとつついてみれば、パラパラと音を立てながら、少し崩れたような気がしないでもない。


「……これ一人が通れるぐらいまで広げるのってどれぐらい掛かるのかしら?」


 ちょっと迷ったけど、迷ってたって迎えが来る訳でもないのだからやるしかない。素手でやるのは大変だ。さっきまで座っていた椅子を探し出してがつがつと叩き出す。


 どれぐらいやればいいのか分からないけど、元々崩れている壁だもん。簡単に崩れてくれるはずよ。




◇◇◇◇◇◇




「や、やっと崩れた……」


 つ、疲れた。


 ゼーハー言いながら四つん這いになれば、何とか通れそうな穴になった。


 後はここを通って逃げ出すだけなんだけど、疲れ過ぎていてしばらくは動けそうにない。


 もうちょっと体力をつけた方がいいのかな? でも、こんなこと何度もある訳がないんだし。


 休憩したお陰で少し動けそう。


 ちょっともたもたしてしまったけど、開けた穴から外に出てホッとする。外は思っていた通り薄暗いけど、辺りは何となく分かる程度だけど、倉庫の中だじゃないというだけでもいい。


 それより、ここはどこなんだろう。さわさわと風の音がするし、木がそれなりに見える


 家から近い場所だったらいいけど、遠かったら一晩中歩きっぱなしになるんだろうか?


 その辺りは分からないけど、夜に動き回るよりも日が昇るのを待ってから動いた方がいいかな?


 森の中だったら王都の中でも危ない可能性あるかもだし、だけど、倉庫の中には戻る気にはなれずに、倉庫の壁に凭れ掛かる。


「お腹空いたなぁ」


 今何時だろう。


 月の位置から時間が分かればいいけど、あいにくあたしにはそういった知識がないので分からない。どうやったらそんな知識が身に付くんだろ。勉強すればいいのかな?


 空を見上げても星の名前も分からないのでつまらない。今頃みんな眠っちゃってるのかな。


 うちの家はあたしのこと探してるだろうなぁ。あたしだってこんなことがなけりゃ今頃はふかふかのベッドの上だったろうにと思うと泣きたくなってきた。


 もうくたくただし、どうしてあたしはこんな目に合わされてるんだろう。どれもこれもグラディス様のせいだと思えば、やっぱりグラディス様なんて嫌いだ。


 ここから帰ったらお父様にあたしの気持ちを伝えてグラディス様を家に入れないようにお願いしよう。


 グラディス様があたしに興味を持たなければ、こんなことにはならなかったんだもん。


 グラディス様には迷惑だってはっきり迷惑だって言おう。


 家が没落したって構うものか。グラディス様がいる以上またこんな風に誘拐されちゃう可能性だってある。


 あたしみたいな教室の片隅で本を読んでいるだけの女の子には、そんなのいらない。


 グラディス様の隣にはもっとふさわしい人がいるはずだからそういった人を探してくださいとお願いしようと考えている間に疲れていたこともあっていつの間にか眠ってしまっていた。



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