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第13話

「……そう思っていた時期もあたしにはありました」


 呟いたはいいものの、殴られた頭は痛いし、怪我の具合を確かめたいのに、後ろ手に縛られて座らさせられているせいでそれも確認出来ない。


 唯一よかったことは地面に座らせてるんじゃなくて、ちゃんとした椅子に座らせてあることぐらい?


「どこよここ」


 どこかの倉庫っぽいけど、薄暗くて場所とか手がかりになりそうなものはない。


 でも、ところどころ壁が崩れている場所もあるので、そこから外の明かりが漏れている。光の加減から気絶してからそんなに経ってないことが窺える。


 殴られた時あたし何してたっけ? 


 あ、そうだ。ピンク髪の美少女探してたんだった。それで、どうしたんだっけ? 確か中々見つからないからピンク髪の美少女は家に帰っちゃったんじゃないかってがっかりしながら家に帰ろうかなととぼとぼと歩いていたら、誰かに声を掛けられて……。


「あ、お姉さま起きているみたいですわよ」

「あら、本当? それだったらちょうどいいわね」


 何があったのかと思考を巡らせていたら、可愛らしい女の子の声が複数人聞こえるのと同時に、倉庫のドアが開いて三人の女の子。


 彼女たちの格好はあたしと同じ制服。


 見覚えのない顔に違う学年の子たちなんだろうと察するけど、どうしてここに? と一瞬考えそうになったが、こんな場所に来るのなんて、誘拐犯かよっぽどのお馬鹿さんぐらいだと思う。


 三人はあたしを見てこそこそと会話している。話の内容は分からないけど、視線の冷たさからあんまりいい内容ではなさそう。


 もしかしなくてもこの子たちに殴られてここに縛りつけられたってことでいいんだよね。


 何のために? とりあえず、声を掛けるべき?


 あんまり関わり合いになりたくはないけど、声を掛けなきゃどうしてこんなことしたのかも分からないし、もしかしたら適当に話を聞いていたら解放してくれるかも。


 いつまでも彼女たちのひそひそしているのを見てたって、頭の痛みも消えないし、そろそろお腹も空いてきたので早く帰りたい。


「あのー」

「ちょっとこの方普通に話しかけて来ましたわよ!」

「自分の置かれている状況が理解出来てないのでは?」

「それはありますわね」


 何か勝手に納得してるんだけど。


 やっぱりこの子たちが犯人ってことでいいんだよね。


 どうしてこんなことをしたのか聞いてみたいけど、それよりも──


「これ外してくれない? 今帰してくれるんだったら大事にしないから」


 倉庫で目を覚ました時はお父様関連だったのかと思ったけど、これは誰関連だろう?


 グラディス様関連? でも、あの方は学園の中でもかなり恐れられている。そんな方だから遠くから見るならありという方がいても、お近づきになりたい方なんていなかった。


 というか、あたしグラディス様の隣にいたいだなんて言った覚えがない。それなのに、こんなことされるいわれなんてないわ。


「……あなたたちの目的が何なのか分からないけど、こんなことしたっていいことなんてないよ」


 これ他の人にバレたら社交界追放とかもあり得るんじゃないの? そういった意味を含めて言ったんだけど、彼女たちは眉を跳ね上げただけだった。


「あなたこの状況が分かってらっしゃるの?」

「あなたたちは誘拐犯であたしは誘拐された人でしょう? それ以外何かあるの?」


 見たところ刃物とかの危ない物を持ってなさそうだし、そんなに危ない目には合わないでしょう。


「それが分かっているのなら話が早いですわね。あたくしたちあなたに何度もお手紙を差し上げたのですが、見ていらっしゃらないようなのでしたので、強硬手段に出させてもらっただけですわ」

「あたしはグラディス様とは何の関係もありません。なので、こんなことをされる意味が分かりません」


 むしろグラディス様とは縁を切りたいんだということを長々と説明したのに、彼女たちは納得してないのか、縄をほどいてくれる様子もない。


 長々と話していたせいで、ちょっと疲れてきた。やっぱり頭を殴られたせいもあるのかも。


 こういう時、小説ならヒロインのピンチにヒーローが駆けつけてくれるんだろうけど、悲しいかな現実はあたしのこと助けに来てくれる人なんていないみたい。


「あたくしたちが知らないとでも思っているの?」

「あなたがグラディス様につきまとっているのを何人もの人が見ているのよ」

「シラを切るのはやめなさい!」

「ええー」


 何で分かってくれないの? というか、この人たちあたしの話ちゃんと聞いてないでしょ。


 聞いてたらそんな勘違い起きる訳ないし、見ただけで他人の心情なんておしはかれるものなんかじゃないじゃないの。そんなことも分からずに好き勝手に言ってくれちゃって。


「あなたは黙ってグラディス様から離れてなさい! このへちゃむくれ!」

「へちゃ……」


 それってあたしが可愛くないってこと?


 自分ではそこそこ可愛い方だと思っていただけに、彼女たちの発言に思った以上にダメージを受ける。


「いいですこと。あなたが反省するまでここにいなさい」

「えっ、ちょっと、それは困る!」


 へちゃむくれにショックを受けている場合じゃない。彼女たちが口々に何か罵ってくるけど、それよりもトイレに行きたくなったらどうするのよ!


 今はまだ行きたい気持ちはないけど、縛られてるのなら、動けないじゃん。せめてこの縄をほどいてくれたらいいのに、彼女たちはそれすらしてくれないと。


 非道過ぎでしょ!


 文句を言うよりも先に彼女たちは倉庫から出て行ってしまった。


「嘘でしょ……」


 このまま一晩放置とか乙女の沽券に関わるんですけど!


「ちょっと待って! グラディス様には近寄らないからここから出して!」


 わーわー叫んだ叫んだけど、彼女たちに聞こえなかったのか、彼女たちが戻って来ることはなかった。


「いや、これどうすんのよ……」


 無事にここから出られたらあの三人見つけ出して絶対に仕返ししてやるんだから!


 メラメラとあたしの復讐に火をつけたんだから覚悟しなさい!


 あの子たちに復讐するためには、まずはここから逃げ出すことが先決ね。外に見張りがいるかもしれないけど、きっと貴族令嬢一人だから何も出来ないと思っているに違いないわ。


 トイレに行きたくなる前にここから逃げ出さなくちゃ。



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