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第12話

 グラディス様に手紙を押し付けから数日。


 思っていた通り、グラディス様は手紙の差出人を探すのに注力してくれているみたいで、放課後は一緒にお茶をすることがなくなってホッとする。


 昼休みとかはまだ一緒にいなくちゃいけないけど、手紙の差出人を探してもらってるんだからあんまり贅沢言ってられないわ。


 グラディス様のご機嫌取りだって頑張れるわよ。


 一応手紙の差出人のこと何か分かったのかなと思って聞いてみても、グラディス様は心配するなとしか教えてくれたかった。


 差出人探しは難航してるのかな? いたずらじゃなければ、グランノワーズ侯爵家だと思ってたんだけど、グランノワーズ侯爵家じゃなければ、あたしには本当に分からない。


 やっぱりお父様関連の嫌がらせかな?


 だったらグラディス様じゃなくて、お父様に相談するべきだったかしら?


 いや、でも、グラディス様の名前が書かれてるんだから、グラディス様に相談するべきだったのよ。


 あの方なら簡単に解決してくれそうだし。


 手紙はまだ来てるので、それはグラディス様に学園で渡してる。面倒事はこれ以上はごめんよ。さっさと手紙の差出人を見つけて終わりにしたい。


 たまにグラディス様が何か言いたげにしていることもあるけど、それは見て見ぬフリをする。


 グラディス様は手紙の差出人を探すのに忙しいのだから、あたしが邪魔しちゃ悪いでしょ。


 にこやかにグラディス様を見送って、解放された喜びに身を任せる。


 カリナとマリアは相変わらず忙しそうで、あたしのこと覚えてるかな? と不安になりそうな時があるけど、たまにすれ違うと二人共あたしの方を見るので覚えてくれているのだろう。


 でも、隣にグラディス様がいるせいで、二人に声を掛けられなくて落ち込む。


 あ、そうだ。手紙の差出人が見つからくて、グラディス様が忙しくしている隙にまた二人と一緒に読書して、キャッキャウフフで新しい好みの当て馬を探してもいいのよね。


 そうなったらお父様たちが怒って来るかもしれないけど、先にあたしの気持ちを尊重してくれなかったのはお父様たちだったんだから、別にいいじゃない。


 あたしだって、前はお父様たちのこととか考えてたんだよ。でも、グラディス様に家の中自由に出入りしていいとか、他にも色々と言っているの知っているんだからね。


 あたしが何も知らないと思わないで欲しいわ!


 想像のお父様を頭の中でボコボコにして少しスッキリして、家に戻って着替える。制服は嫌いじゃないけど、家でずっと着ているものじゃないからね。


 最近のお気に入りの服に着替えていると使用人がまたやって来た。


「また?」

「ええ……」


 使用人の行動に察して聞けば、歯切れ悪く言う使用人の手にはいつもの白い封筒。


 また来たのかとげんなりして受け取るだけ受け取る。中身は見ない。


 どうせ書いてあることはいつもとおんなじなんだから見る必要なんてないわ。


 グラディス様の目を掻い潜ってどうやって届けているのよ。もしかしてうちの人間なんだろうか?


「うちの使用人の誰かってことはない?」

「とんでもございません! あたくし共は旦那様に雇われていますが、お嬢様のことは実の娘のように思っています! 誓ってお嬢様の嫌がることなんてしません!」

「そっか。そうだよね。疑ってごめんね」

「いいえ。お嬢様が不安に思うのも無理ありませんわ」


 疑ってた訳じゃないけど、チラッと言った言葉にぎょっとした使用人に怒られてしまった。


 あたしだって、昔からいてくれる使用人なんて疑いたくはない。だけど、いつまでも来る差出人不明の手紙に辟易してくる。


 指定された場所に行けばこの手紙は止まるってのは分かっている。分かってるけど、罠だって分かっているのに行きたくない。


 物語のヒロインは罠だと分かっていても、自ら罠の中に飛び込んで行くのって凄いよね。あたしには絶対真似出来ないもん。


 それに危険に対するとっさの機転とかさ。どうやったら思いつくんだろっていうアイデアだってあるし。


 書いている人の頭がいいからっていう人もいるけどさ、あたしにはそれだけじゃないような気がする。


 だって魅力的な作品はどれもキャラがいきいきとしていて、すぐに夢中になれるんだもん。それ以外の何かがあるに決まってるわ。


 その何かが知りたくてあたしも小説を書いてみようとやってみたことがあったけど、まず話が思い浮かばなくてすぐに諦めたのよね。


 話を作るのがあんなに大変だって知らなかったわ。


 いつもカリナたちとああだこうだと妄想を話していたから、あんな感じだと思っていたのに、あんなに難しいだなんて。


 作家って凄い人なのね。


 しみじみと作品を書くことの大変さを知ったからか、お気に入りのキャラの作家さんにはファンレターを欠かさず書くようにした。返事が来ないのはちょっぴり悲しいけど、


 カリナとマリアにも一緒に書こうとさそえば、二人共喜んで一緒に書いてくれたんだった。


 懐かしい。ちょっと前のことだったはずなのに、もうずいぶん前のことのように感じる。


 また三人で一緒にいられる日は来るのかしら?


 あたしがグラディス様のことを何とかしたとしても、二人もあの方たちのことを何とかしない限りは無理よね。


 先のことを考えると落ち込みそうになる。


 だけど、あたしには先にやることがある。


 さっき疑ってしまった使用人に謝りたいしてなんとか機嫌を治してもらって、新しく来た手紙は明日グラディス様に渡しに行こう。


 ついでに、カリナたちがどうなっているのか、噂でも集めようかしら。あ、それとあのピンク髪のヒロインみたいに可愛い女!


 色々ありすぎてすっかり忘れてたけど、あたしたちあの子がとんな風な恋をするのか気になっていたのよ!


 あの子の恋が始まっていたら、二人もきっと気になるず。


 二人へのお土産話としてはかなりいい話になるに違いない。今すぐに会えなくたって手紙を書いて経過報告したっていいんだしと考え出したら何だか久しぶりにワクワクしてきた。


 放課後グラディス様とは別行動出来るし、その間は自由なんだから好きなことしていよう。


 あの手紙は家に帰って来てからしか目にしないし、学園の中は王族も通うからか、警備もしっかり行き届いているから安心して過ごせる。


 それだったらちょっとぐらい遅くなったところで問題はないわ。


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