目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第10話

 グラディス様があたしと同じ授業を受けるのは一つだけだと思ったのに、実際は一つだけなんかじゃなかった。


 何故かグラディス様の時間割はあたしと全く一緒になっていた。


 今までは全く被ってなかったから安心してたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。


 誰がグラディス様を野放しにしたのよ! こんな横暴をほったらかしにするなんてあり得ないでしょ!


 グラディス様にあたしの取っている授業まで教えるだなんて、この国には個人情報を守ってくれないのかしらとさえ思えてくる。


 誰にだったらグラディス様は止められるんだろ? あの方高位貴族でも容赦しないし。さすがに陛下には何かしないと思うけど、あたしみたいな下級貴族の娘がおいそれとお会い出来る方ではないので却下。


 マリアだったら陛下に直訴出来るのかしら? 今度会ったら聞いておこうかな。


 いや、もう手紙か何か書いてお願いした方が早いでしょ。


 今はマリアは忙しくしているみたいだからね。会えるかどうか分からないし、あたしもグラディス様が近くにいる以上いつ時間が取れるか分からないもんね。


 というか、どうしてあたしはまだグラディス様の気まぐれに付き合わされてなくちゃいけないのよ。


 いつになったらグラディス様はあたしに興味をなくすのか。


 早く興味をなくして欲しい。ちらりとあたしの隣のグラディス様を盗み見る。顔だけみたら天使みたいなんだけどなぁ。


「どうかしたか?」

「いえ、別に」


 何ですぐに視線に気付くの。他の人がグラディス様を見ていたって気になんてしてなかったのに。


 もしかして視線には気付いてるけど、敢えて無視していたとか?


 だとしたら意外とお優しい性格をしていらっしゃる? いや、でも、お優しい方なら敵だとしてももう少し手加減してあげられると思うから絶対違うと思う。


「そうか。何か分からないところがあったら僕が教えてやるからな」

「ありがとうございます」


 いや、あなた今までこの授業受けてませんでしたよね? それとも、天才だからそんなこと関係なく分かるんでしょうか?


 だったら授業なんて出る必要なんてないんじゃない? 飛び級出来るんだし、そのまま卒業したっていいのに。


 何でこの方は通い続けているのかしら? 聞いてもいいかな?


「グラディス様に一つだけ聞いてもいいですか?」

「ああ」


 もう聞いちゃえと思って、声を掛ければグラディス様は頷いてくださったので、じゃあ遠慮なく聞かせてもらおう。


「グラディス様は天才なんですよね。グラディス様は学園に来る必要なんてないのでは?」


 卒業して国の中枢で働いた方がグランノワーズ侯爵家も喜ぶんじゃないの?


 そう思って聞いてみたらグラディス様はすごい表情になった。もしかして聞いちゃいけないことだった?


「あ、あの……」

「あの家からの命令なんだよ」


 慌てて謝ろうとしたが、それより先にグラディス様がぼそりと呟いた。


「僕は別にあのまま路上生活でも困らないかなって思っていたけど、暖かい寝床と僕の一生の生活を保障してくれるって言うからあの人たちの言うことを聞いてるだけだったけど、今は違うかな」

「そうなんですね」


 グラディス様の過去なんて知らなかったけど、想像していたのとは違って過酷な人生だったんじゃないの? グラディス様が路上生活でもよかったなんて信じられなくてぎょっとする。


 あたしなんかふかふかのベッドに綺麗なドレス。美味しいお菓子に大好きな小説がない生活をしろって言われても絶対に無理としか答えられない。


 それをいらないと言ってのけられるグラディス様は凄いとしか言い様がない。


 普通は貴族の生活は庶民の憧れだっていう。あたしだって高位貴族に憧れることはある。


「おい、聞いてるのか?」

「え? あ、すみません」


 聞いてなかった。


 グラディス様の過去に思いを馳せていたから。


 でも、そんなことを言ったらプライドの高いグラディス様のことだから怒ってくるかもしれない。だったらさっさと謝っておいといた方がよっぽどいいと早めに謝っておく。


「……だから、今僕が学園にいるのは」

「あ、はい。侯爵家のご命令だからですよね。申し訳ありません。あ、あたしこの後図書館に用事があったんでした。失礼しますね」


 グラディス様がいない間に沢山借りた本をグラディス様に見られる前に返さなきゃいけない。


 グラディス様にタイトルを見られた日にはからかわれるか、変な勘違いを起こされる可能性だってある。


 今までならこっそり返せたでしょうが、今はグラディス様と全て同じ授業になっているし、何故かお昼もグラディス様とご一緒するハメになって、中々タイミングが掴めない。


 慌てて図書館に逃げ込んだけど、もしかしたらグラディス様が着いて来ているかもしれないと図書館の入り口から外を伺ってみたけど、グラディス様らしき方はいらっしゃらなかったのでホッとする。


 よかった。


 ここまでグラディス様が着いていらしたらタイトルまで見られてたもん。からかわれるだけならいいけど、弱みを握られるのは嫌。


 グラディス様の過去には同情するけど、それとこれとは別だもん。


 本を返却した後、新しい本を借りたかったけれど、グラディス様が近くにいるのならそれもしない方がいいよね。


 あたしのオアシスの当て馬を見れなくなるのは辛い。だけど、それも一時的なものだと思えば我慢出来る。


 学園にいる間だけの我慢だから。それに、この間グラディス様が一月もお休みになられている間に沢山堪能出来たのだからもう少しだけなら我慢出来る。


 帰ったらあたしの愛読書もどこかに隠しておかなくちゃ。


 今のところ部屋には入られたことないけど、お父様が勝手にお屋敷の中を自由に歩き回っていいって許可を出しているせいで油断は出来ない。


 今まではあたしの衣装部屋に隠しておいたけど、あそこで大丈夫かな?


 グラディス様の相手をしなくちゃいけないってのに、趣味まで制限かぁ。


 本当に何でこんなことになっちゃったんだろ。


 国外逃亡が無理ならグラディス様もうちょっとお休みになられないかしら?


 お休みになられていた理由はあたしにお菓子作るのをリベンジするためみたいなことを言っていらしたけど、他の物でも言ったら休んでリベンジしてくれるのかな?


 今度試してみようかな。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?