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第6話


 グラディス様のお屋敷を後にしたあたしは、そのまま自分の家には行かずにマリアの屋敷に向かった。


 もう何日も用事で会えないんだもん。そろそろ会えるはずだ。


 それに、マリアに会えなかったとしても、マリアの蔵書は好きな時に見せてもらえる許可はもらっている。


 グラディス様のせいで、ここのところお気に入りの本も全く読めてなかったし、マリアに会えるのならちょっと愚痴ぐらい聞いて欲しい。


 会えなかったら会えなかったで、本だけでも読ませてもらおう。マリアのお気に入りの当て馬も結構いいキャラが多いし、何冊かは借りて行けるかもしれない。


 そう思ってマリアの家に逃げ込めば、カリナの姿があってびっくりした。


「カリナ?」

「……久しぶりねリザベル」


 カリナはちょっと痩せた? というか、窶れたような。


 疲れた顔をしたカリナの姿にぎょっとする。ちょっと前までは元気だったじゃないのよ。


 しばらく会わない内に何があったのよと慌てて駆け寄る。


「どうしたの?」

「聞いてくれる?」


 あたしたちがヒロインとグラディス様たちの集まっているところに出くわして、滑ってみんなの前にうっかり飛び出してしまってからの話だった。


 カリナは確かステファン様に助けてもらっていたんだよね。


 ステファン様はグラディス様とは違った俺様なんだけど、ステファン様を一言で表すならお馬鹿様だ。


 黒髪に金色の瞳、何事も芝居がかった仕草だけでもムカつくけど、グラディス様とは違ってステファン様はこの国の王子様だ。


 迂闊なことを言って首をはねられたくもない。


 どうして王族にこの様な方が生まれてしまったのかと誰もが首を傾げるしかないが、不貞を疑おうにもステファン様の纏っておられる色彩は王族にしか現れないものなため、誰にも何も言われない状況。


 王妃様も陛下もステファン様のお馬鹿を治そうと奔走なさっており、あたしたちのような下級貴族が口を挟めるような問題でもない。


 でも、まあ、ステファン様はお馬鹿様だけど、決して悪い方ではないからね。うん。


 そんなステファン様が最近カリナのところに現れるようになったんだとか。


「最初は偶然だとか、たまたまだろうとか思っていたのよ。でもね、仮にも王族があたしたち下級貴族が出入りするようなところばかりに現れるだろうかとか、ステファン様についている護衛たちが何度も慌てているのを見ている内に何かおかしいって気付いてね。このことをマリアとリザベルに相談したかったんだけど、二人共都合がつかないみたいで、いつ行ってもいなくてさ」

「……そうだったんだ」


 あたしと似たような感じだったのか。


 というか、カリナが来てたんだったら誰か教えておいてくれたってよかったのに。あたしはグラディス様より大事な友達の方を取るわよ。


 というか、グラディス様方はどうして、あのピンクの髪のヒロインちゃんじゃなくて、あたしたちのようなモブのようなところに来るのだろうか。


 あたしたちよりあの子とくっついた方が話題性があって楽しいことになると思うんだけど、何故? そのことについて話し合ったけど、あたしたちみたいな人間には雲の上のような人たちが考えたって分かる訳がないって結論に達した。


 片方は天才。もう片方はお馬鹿様。凡人のあたしたちには理解が及ぶ訳がないのよ。


 カリナも大変みたいだけど、あたしもグラディス様のことをもっと愚痴りたい。


「あのさ──」

「二人共ここにいたのね!」


 あたしがグラディス様のことを相談しようとしたら、いきなりマリアの書庫が大きな音を立て開いてびっくりしたら、マリアがいつもの淑女らしさをかなぐり捨て、叫びながら入って来てあたしたちは飛び上がってしまった程驚いた。


「マ、マリア?」

「二人共何でいつも会えないのよ!」

「いや、それあたしたちの台詞……」


 マリアの剣幕に二人揃って尻込みしそうになるけど、あたしたちだって会おうとしたわよ。それなのに、二人共いつも来客中だとかで会えないし、学園に着いたってグラディス様とかいらっしゃってら会いたくても会いに行けなかったりしてこっちだって大変だったんだから!


 そんなことを二人で長々と反論する。


「今日だって気分転換のつもりで入ったお店にグラディス様が現れるわ。あたしがお菓子が好きだって知ったグラディス様に自分も作れるからって、変なもの食べさせられそうになって逃げてきたのに……それなのに、なんで危ない目に合ったあたしが怒られなきゃいけないのよ!」


 言ってて泣きたくなってきたわよ。


「リザベルも大変だったのね」

「……もしかしてマリアも?」


 しみじみいうマリアの顔にもしかしてと思って問いかければ、マリアはこくりと一つ頷いた。


「ええ、私はアントニー様よ」

「えっ腹黒……」

「嬉しくない」


 それぞれ自分たちが相手にしている人たちが誰かと話し合って落ち込む。


 二人は王子だから逃げられないし、あたしも逃げても相手をしても破滅する未来しか見えないグラディス様の相手をしないといけないので、三人で絶望するしかない。


「でも、マリアは仮にも公爵令嬢なんだから、縁談とかは何とかなりそうなんじゃないの?」

「それが、そうでもないの。お父様が隣国との繋がりを作っておきたいってことで、私にもアントニー様のご機嫌取りをするようにおおせつかっているのよ」


 じゃあ、しばらくはマリアは接待をしなきゃいけないってことか。


 でも、それならまだあたしたちよりはマシなんじゃないの?


「それぐらいならまだいいよ。あたしさっきグラディス様に生焼けのクッキーもどき食べさせられそうになって逃げて来ちゃったの。どうしよう。国外逃亡した方が安全かな」

「それは……あたしたちにとばっちりが来ないことを願うしかないわ」

「見捨てないでよ!」


 二人なら何とかなるかもしれないとここまで逃げて来たのに、見捨てられたらあたしはどこに逃げればいいのよ。


 話をしていても解決にはなんないかもしれないけど、それでも胸の内に溜まって来ていた気持ちをぶちまけられただけでも、二人に会えてよかったとは思っている。


 グラディス様というか、カリナたちの方もだけどどうしてヒロインちゃんの方じゃなくてあたしたちの方に来るの?


「ねえ、あのヒロインちゃんってどうなったの?」

「分かんない。マリアは知ってる?」

「アントニー様の相手するのに忙しくて全然見てなかったわ」

「だよね」


 みんな厄介な人たちを相手にしていたから、他人のことなんて気にしている暇なんてなかったんだよ。


「お気に入りの本だって読めないし自由が欲しい」

「そうよね」

「どうしてこんなことになっちゃったのかしら」

「あたしが知りたいわよ」


 ついでにグラディス様からの関心を他の人に変える方法とかも、誰か教えて欲しい。


 解決方法は全く分からないまま時間だけが過ぎて行った。


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