私の名前は女神マリアンヌ。
とある異世界の創造主であり管理者である。
細かい経緯は省くが、私が統べる世界に魔王が生まれ、なんかしっちゃかめっちゃかになってしまった。よくわからないけど世界征服なんて厨二病なことを考えて、本気で世界を手中に収めようとしてる馬鹿がいるらしい。
私の世界の者たちはものすっごい弱っちい奴らばっかりなので、魔王を倒すような力がない。
そこで私は異世界から勇者を召喚することにしたのだった。
「アルノワナ、クワテリタナ、セロセロテープ、ワッショイナー!」
適当な言葉を唱えて杖を振り回せばあら不思議、目の前に異世界からやってきた女の人が!
グレーのスーツを着た、二十代くらいの女性である。彼女は何故かものすごく動揺した様子で私を見た。
「ちょ、え!?このどこ!?あたし、自分のアパートに駆け込んだはずじゃ!?」
「申し訳ありません、人の子よ。あなたは私によって異世界の勇者として選ばれました」
「わっちゅ!?」
私はかくかくしかじか、と経緯を説明した。すると彼女は真っ青な顔をして言ったのだった。
「こ、困るよそんなの!勇者なんてやってる場合じゃない!そんなの他の人に頼んでよ、家に帰して!」
「受け入れがたいのはわかります。ですが、我々も本当に困っているのです。私の魔法に適合し、勇者になれるのはあなただけなのです」
嘘だ。
ぶっちゃけ、何も考えずにてきとーに選んだだけだ。
「それに、私の魔法はもう発動してしまいました。あなたは当分元の世界には帰れません」
「それは困る!」
「いや、だから困ると言われても」
「困るの!ほんと無理なの!だってあたし……」
彼女は涙目になって言った。
「ぱんつ履いてないのっ!!」
はい?
今なんて言った?固まる私。
「ぱんつ履いてないのよおおおお!うっかりぱんつ履くの忘れたことに気付いて、家に取りに戻ったところだったの!だから今ノーパンなの!!さすがにノーパンで勇者とか無理だからっ!!お願い、せめてパンツだけ履きに帰らせて!!そのためならなんでもするからぁぁぁ!!」
「え、ええええ……」
いい年した大人が何やってんの、と呆れてしまう。
しかし、彼女の必死な顔を見てぴーんと来た。よもや、これは使えるのではないか?
「……人の子よ」
私は平静なふりをして言ったのだった。
「魔王を大急ぎで、それはもう超特急で倒すのです。さすればあなたに、ぱんつを履く資格と元の世界に戻る資格を与えましょう」
「な、な、なんですとおおおおお!?」
「申し訳ありませんがそうしなければ魔法が解けません。ノーパンで勇者を頑張ってください」
「嘘でしょおおおおお!?」
まあ、彼女のスーツはスカートではないし、なんとかなるだろう、多分。
「あああああああもう!仕方ない!やればいいんでしょ、やれば!!」
どうやらよっぽどノーパンが嫌だったらしい。彼女はやけっぱちで、私のミッションを受けると言ってくれたのだった。
その執念は私が見込んだ通り凄まじいものがあった。なんと私の世界に送り込んで五分で魔王を倒してくれたのである。
戻ってきて第一声がこれだ。
「お願い早く!あたしにぱんつをっ!!」
「あ、ハイ……」
まさか魔王も、パンツのために五分で倒されたとは思うまい。
――ていうか、チートスキルもない異世界人に五分で倒される魔王に苦戦してた我が世界の民マジで雑魚すぎない?あと、ぱんつはこの世界でも売ってたんだけどなんで買わなかったのかしら、彼女。
一体どこからツッコミを入れればいいのかと、しばし本気で悩んでしまった私だった。