「というか、なんで私たちが中庭の掃除まで?」
5月初週の放課後。俺と姫川は、吹き抜けになっている新校舎の中庭を掃いていた。
「吹奏楽部が勧誘コンサートをやるんだと。講堂はオーケストラ部に取られたらしいから、ここでやるしかないらしい」
それで、会場整備に先んじて、俺が掃除役を勝って出たわけだ。
「じゃなくて、それだったら吹奏楽部員が掃除するべきじゃない?」
そうなんだけどな。正論なのは姫川の方だ。
「まぁ、俺たち部活に入ってないし。吹奏楽部員の皆さんが少しでも練習時間取れるようにした方が良いだろ?」
「美化委員だからって、お節介すぎるよ……」
などと文句を言いながらも、姫川は丁寧に掃き掃除を続けている。最初は俺一人でやるつもりだったのだが、手伝ってくれるとは思わなかった。なんだかんだ、姫川もお節介だというわけだ。
「掃き溜めのゴミどもが。随分と精が出るな」
なにやらどストレートな悪口が飛んでくる。少々イラっとしたが、別に無視すればいいだけのことだ。
問題は、姫川がまた口撃で相手をオーバーキルしないかどうかだ。
「って、生徒会長!?」
よく見ると、入学式で演説していた現生徒会長だった。
何やらニヤニヤしながら、2階窓からこちらを見下ろしている。生徒の模範たるべき男の言動とは思えない。
「姫川、ここはどうか抑えて……」
「はい~、ゴミはゴミらしく、掃き溜めで頑張ります。お声がけありがとうございます!」
姫川は信じられない言葉を発していた。こいつが権力に阿るようなタイプとは思えない。むしろ、生徒会長にこそ突っかかっていく女だと思っていたのだが。
「ふん、口が悪くプライドの高い女だと聞いていたのだが、気味が悪いな」
生徒会長はそうとだけ吐き捨て、すぐに去っていった。
「どうしたんだ姫川? お前らしくない……」
「なんか、いちいち全力で相手にぶつかっていくの、疲れちゃって……もういいかなって」
姫川も諦めて相手の土俵に乗らないことを覚えたのか。成長と言えば成長だが、それでいいのか?
「そうか、ま、それもアリだと思うよ」
「でも、」
「でも?」
姫川は急に俺の肩を引き寄せ、目を見開いた。
「ホンッとムカついた! なんなのアイツ! 何様? 人をゴミ呼ばわりするような奴に会長が務まるわけ? むしろ生徒会長なんて権力も何もない、雑用係代表みたいなもんでしょ!」
それからも姫川は、くどくどと悪口雑言を叫び続けた。姫川も考えを変えたのだろう。だがなんかこれ、俺がストレス発散係になっていないか?