「ごめんなさい、言い過ぎた」
俺が圧倒されていると、姫川はすんなり謝ってきた。
「いや、姫川の言うことはもっともだ。俺は、嫌味な連中と戦うのが怖くて、勝手に見下していたのかもしれない。考えを改めるよ」
「いや、でも、柊木くんの言うことにも一理あると思うな。高校生にもなって、幼稚園児とガチ喧嘩する人もいないし」
確かに、悪口を言ってくる連中なんて幼稚園児レベルと見下し、割りきった方が良い。そんな奴らとガチでやり合うなんて、大人げないしバカげている。
だが、曲がりなりにも、奴らは同世代の人間なのだ。それなりの誠実さを以て対峙するのが筋というものだろう。
「そうだが……でも人間、ぶつかり合って、傷つき傷つけ合いながら成長していくものだとも思うし」
「柊木くんの信念に迷いが出てる……! 意外と芯がブレやすい性格なの?」
姫川はそんなことを言って茶化してみせた。場の雰囲気のことも考えられる奴なんだな。
「ブレやすいっていうか、フレキシブルだと言ってくれ。俺にも思うところがあったんだよ」
「どうだか。私とぶつかり合いたくなくて、物分かりの良いふりしてるんじゃないの?」
俺がそこまで平和主義者に見えるのか。
「それはないよ」
俺はきっぱりと言っておいた。
「理解できない考え方に賛同したりはしない。分からないことは分からないと言う。それが、俺の考える誠実さの一つだ」
姫川は安心したような顔で頷いた。
「良かった。適当に流さないでいてくれて。案外私たち、似た者同士なのかもね。真面目すぎて、いい加減なコミュニケーションが取れないのかも。通りで友達いないわけね」
「確かに。根っこは一緒なのかもな」
俺はくそ真面目すぎて敬遠され、姫川は誠実すぎる体当たりコミュニケーションで敬遠されている。
「じゃあ不器用同士ってとで、これからもよろしく」
「あぁ、よろしく」
握手を求めてきた姫川の手を、俺は強く握り返した。