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オーバーキルな彼女たち~学年三美神が俺にだけ本性丸出しな件~
川崎俊介
現実世界ラブコメ
2024年11月11日
公開日
8,949文字
連載中
橘花学園の美化委員会は、学園内で問題を起こした生徒たちを更生させる「最後の砦」。真面目で掃除好きな柊木亮(主人公)は、自ら志願して美化委員会に加わるが、待っていたのは「学園の問題児」と名高い個性的な美少女たちだった。自分が理想とする静かな掃除活動とは程遠い現実に、亮は戸惑いつつも、彼女たちと心を通わせていく。

第1話 オーバーキル嬢

【悟る前、私は木を切り水を運ぶ。

悟った後、私は木を切り水を運ぶ】


 俺こと柊木亮(ひいらぎりょう)の好きな禅語だ。


 悟りを開く前後で、やるべきことをやることは変わらない。寧ろ日常の作業に感謝を持ってこなせるようになってこそ、悟ったと言えるだろう。


 そう思って、高校では美化委員会に入った。校内美化を通して、俺自身の心も磨かれる。そのはずだった。


「姫川さん、私の彼氏に色目使ったでしょ?」

「貴方の彼氏が誰かなんて知らない。そもそも、貴方みたいなのに彼氏いたの?」


「ちょっと、いくらなんでもその言い方はないんじゃない?」

「言い方だけ変えれば許してくれるの? 内容は同じでも?」


「調子づくのもいい加減にしな。私の友達の先輩、結構ヤンチャしてて……」

「この歳になって不良自慢? 見苦しいわよ。それとも何? そのワルな先輩が私を懲らしめてくれるの? だったら今すぐ連れて来なさい? 返り討ちにしてやる!」


 俺の学年の高嶺の花にして、女子から嫌われまくりの姫川美紅(ひめかわみく)は、相変わらずの強気の態度だ。集団で吊し上げを食らっているのに、一切動じない。


 普通、いじめっ子の方が大人数だが、これでは、どちらがいじめられているのか分からない。


 むしろ、いじめっ子たちの方がオーバーキル状態だろう。


「止めに入る必要は、無さそうだな」


 姫川が花壇の水やり当番に来ないので、探してみればこの有り様だ。カースト上位女子を言葉だけで圧倒するとは、さすが学年の【三美神】の1人と呼ばれるだけある。


 容姿がいい奴は覇気も凄いのか。


「くっ、覚えてなさい!」


 女子グループはあっけなく退散していった。


「あの、姫川さん。今日俺と水やり当番だよね? 一緒に……」


「え? あっ! ごめんなさい。見苦しいところをお見せして!」


 姫川は申し訳なさそうに頭を下げ、俺に付いてきた。


「ちょっと、こっちに……」


「え? ここって体育館裏じゃ……」


 なぜか人気の少ない所に連れ出される。まさか俺、カツアゲされてしまうのか? 


「うわああぁん! 怖かったよぉ! 柊木くん、見てたなら助けてよぉ!」


 さっきとは打って変わり、姫川は子供のように泣き出した。


「え? でも姫川さん、あんな強気で……あーよしよし。もう大丈夫ですよー」


 慌てた俺が、赤ちゃんでもあやすかのように語りかけると、ようやく泣き止んだ。


「ごめんなさい、取り乱して。私、そんな強気に見えた?」


 まだ涙ぐみながら姫川が問う。


「だいぶ強気に見えたけど」


「そ、そうなんだ。でも、内心では大勢に囲まれて本当に怖くて……無理して虚勢張ってただけなの」


 それにしては物凄い気迫だったけどな。あんな勢いで悪口を捌いていく女子は見たことがない。


 まさか、これも俺を騙すための演技なのか? 男には弱みを見せて媚びを売るタイプなのか?


「今度からは一緒に行動して」


「え? あぁ、そうだな。同じクラスなんだし、一緒に教室出れば良かったよな! 美化委員の仕事の時はそうするよ」


「違う。常に私と一緒にいて。お昼も休み時間も」


「な、なんで?」


 そこは彼氏とか女友達と一緒にいればいいだろう。


「私、女子の友達いないし、なんか男子からもビビられてるの。分かるでしょ?」


 同じクラスだが、俺はぼっちなので知らなかった。


 だが、困っている女子は放っておけない。ましてや、あんな無茶して虚勢を張っていては、いつかメンタルに限界が来てしまう。


「分かった。協力するよ。できるだけ女子と喧嘩しなくてすむようにする」


「喧嘩じゃなくて、吊し上げられてただけ!」


 俺には立派な言い争いに見えたのだが。ともかく、俺は高嶺の花美少女と行動を共にすることとなった。


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