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幽霊になんてなりたかった訳じゃない!! ~可憐な日常~
武 頼庵(藤谷 K介)
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年11月11日
公開日
48,987文字
連載中
 一人の美少女日比野カレン。
 家族の為、自分の為と努力をしてきたカレンだったが、事件に巻き込まれたことをきっかけに、自分の意志で生き霊として体から離れる事ができるようになってしまった。

 その事件は、結果的に自分が知らない世界へと誘うことになる。
 
 事件解決に協力してくれた男の子との出会いから、増えていく仲間たち。わちゃわちゃとしながらもなんだか楽しい毎日を過ごしていく。

 時々、霊的な事件に巻き込まれるも、自分を救ってくれた男の子と共に立ち向かう。そしていつしかその大きな背中に付いていく事が、日比野カレンとしての日常になった。
 
 霊感体質な義兄妹と共に、愉快な仲間たちと過ごしていく霊感的青春物語。

※この物語は『改訂版 幽霊が見えるからって慣れてるわけじゃない!!』のスピンオフ作品です。登場する人物は幽慣れに沿う場面と、違う場面ももちろんあります。
 主人公は、日比野カレンです。


※本編の進行次第で更新頻度が変更します。ご注意ください。
※このお話は不定期更新で進行予定です。

これが今のわたし



 大勢の人がペンライトを手に持って一生懸命に、一緒に歌って踊って楽しんでくれている。


――私はアイドルなんだ!! セカンドストリートのセンターで歌っているんだ!!



 何時からかはか知らないけど、いつものあたしを[ポンコツお嬢]とかいうあだ名がメンバーの中に広がってる。出所はだいたい予想がつくんだけど、あえて聞かないでそのままにしている。


――うん。だって……。まぁ……認めたくはないけど間違いじゃないし……。


 ステージの上での自分と、普段の自分が別人だってことは分かっている。小さい頃からの夢だったアイドルとしてのステージなのだから、チカラ全開で張り切ってやるにきまっている。


――それに……が現れるのはいつもじゃないし。

アイツがいる時だけ。その時だけは[素直なままのアタシ]なのです……。



「みんなぁ~!! ありがとうぅ!!」

メンバーがステージから一人ずつステージのわきへと下がっていく。ライブ終わりのいつものファンサービスは私が一番最後。なのでこの挨拶をした瞬間に、ライブは終わりを迎えることになる。


「おおぉぉ!!」

「カレンちゃーん!!」


 歓声に送られながらわたしはステージを後にする。


――この時が一番気持ちがいい!!

 何と言ってもファンがいてくれて、その前で歌えるだけで幸せなのだ!!



「カレン今日も良かったよぉ」

「ダンスが切れてたね!!」

「サイコーだったよ!!」

 ステージを降りて、控室に戻っていく間にすれ違うスタッフやイベント関係者らから声を掛けられる。この時もアイドルスマイルを忘れるわけにはいかない。今はSNSで何を書かれるかわからないから緊張を解くわけにもいかない。ちょっと前までの自分達では考えられないくらい広い控室は、結構奥にあるのでずんずんと進む。


 控室と書かれた紙の貼ってあるドアノブをガチャリと開け、一応室内を確認し、先に入って行ったメンバーが居ることを視認してから、ようやく自分も室内へと足を踏み入れる。そしてドアを閉めるのだが、ようやくここで少しだけ気を抜くことが出来る。


「ふぅ~~!!」

 控室に入って少し落ち着けると思った瞬間に出るため息。もうすでに先に戻って来ていたメンバーのみんなは水分を摂ったりストレッチしたりと、するべきことを言われる前から各自でこなしている。私も空いている椅子へと向かい腰を下ろすと、まずはペットボトルを手に取って未開封のモノかを確認してからようやくふたを開け、一気に喉の奥へと流し込む。


 ここまでがライブ終わりのいつも自分がしているルーティーンみたいなもの。なんというかセンターで歌っているからこその責任感というか、最後に自分が入って行くという責任感みたいなもので、皆が無事かを確認する癖がついてしまったみたい。


 そんな一連の事が終わってようやく、そのまま控室の中で仲良く談笑を始めるのがいつもの私達だった。


 このメンバーとも長い付き合いだし、メンバーの入れ替えとかは今まで一回もない。それだけ本当に仲良しグループなのだけど、一度だけ解散の危機に陥った事がある。


――そうだ。私の誘拐事件のあの時に……。


 それからいろいろあった。変なやつにストーカーされた時も、ここにいるメンバーが力を合わせてくれた。すごく感謝している。帰ってくる場所があった時のあの感動は今でも忘れられない。


――思い出しただけで涙が込み上げてくる。今でもそう……。



 今日も私たち[セカンドストリート]は単独ライブって形で大きな会場で楽しく盛り上がる事が出来た。少し時間も経ったし、もうそろそろそこのドアが開いて呼ばれると思う。


がちゃ!!


「今日も盛り上がったねぇ!!」

「「おおぉ!!」」

「でもまだまだいけるよねぇ!!」

「「おお!!」」

「それじゃぁいこう!! アンコールだよ!!」

「よっしゃぁ~!!」

「はぁ~い!!」


 思い思いに飛び出していくメンバーたち。私はそれを一番後ろから見届ける。そして一番最後に出てみんなを追いかける。


「よしっ!!」

遅れて舞台袖に着いた時には、みんなが集まって丸くなっていた。円陣を組んで気合を入れている。曲順を確認して話に混ざっていくとみんながほっとしたような顔で迎えてくれた。そしてこのチームを束ねるキャプテンから檄が飛ぶ。

「さぁ行くぞ!!」

「おう!!」

「セカンドストリ-ーーート!! ファイト!!」

「「「レッツゴー!!」」」


いつもの掛け声と共に元気にステージへと戻っていく。同時に初めの曲のイントロが流れ始めスポットライトがメンバーに順次当てられていく。最後に私が真ん中を歩きながらスポットライトが集中する。


 もう一度あの盛り上がるライブの始まりだ。今度も楽しまなくちゃ!! と張り切って出て行った。



 ちょうど同じころ、ライブのある会場近くの公園に集まってくる人影。初めは二人だったけど、また二人、また二人と増えて今では六人になっている。集まった人影はずっとライブ会場を見つめているだけ。


 十数分その場にいた六人はライブ会場の灯りが消されていくのを確認すると、誰ともなく歩き出していた。向かう先はライブが終ったはずの会場。普通の人たちならまず入れないゲスト入り口でパスを使って何事もなく入って行く。



アンコール後の控え室では――。

「おつかれさまぁ」

「カレンやっぱり今日は調子いいよね」

「この後何かあるの?」

「え!? べ、別に何もないわよ!!」

 楽屋に戻る途中でメンバーから声を掛けられる。見る顔見る顔みんな「にやにや」してる。


――気付かれたかもしれない!! いやたぶん気付かれてる!!


 そう思った途端に体が熱くなっていくのを感じた。たぶん今なら顔まで赤く染まっている事だろう。

 わたしは急ぐ必要もないのに楽屋まで走っていき、その場にあった私物をわたわたとかたずける。そのまま一直線にシャワーを浴びに向かい、汗をかいた体を心を込めて流していく。どうせそんな気遣いには気付くはずないんだろうけどって少し笑いが込み上げてきたけど今はそんな事を気にしていられない。


 勢いよく出てきたあたしはためらわずにし服に着替える。そう、髪形は三つ編みで二つに束ね、赤い縁鳥のメガネを装着する。それをぼけぇ~っとぼ見ていたメンバーは気付いた人から顔がにやけていった。


コンコン

がちゃ


「カレンいるかい? ゲストで呼んだ子たちが集まっているけど、どうする?」

 事務所の男の人が呼びに来た。

「あ、ありがとう!! 今から行くわ!!」

そう言いながらもう一度鏡の前に立ってセットを直す。

――だって女の子だもん!!


「いってきます!!」

「行ってらっしゃいカレン!!」

 数分かけて整えた格好にようやく納得して、控室のドアの前まで小走りに進む。控室ドアを掴むと後ろを振り返って大きな声で声をかけた。その時に返事をしたメンバーの顔が、異様ににやにやしていた気がするけど、すでに頭の中ではそんな事を気にしている余裕はない。

この時わたしはではなくなる。なんというか、セカンドストリートというアイドル像のカレンから、一般人である日比野カレンになるって表現の方が合っていると思う。そして急いで走ってその人たちが集まっている所に向かう。


「はぁはぁ……」

 ライブ終わりなので息がすっかりと上がっている。

「あ!?」

見つけた時あたしはそれまでとは違う嬉しさが込み上げてきた。

「お待たせ!!」

「お疲れ様ぁ」

「カレンさんかっこよかったですぅ!!」

「ほら、汗拭きなさい」

息せき切ってる私にそのみんなは優しい。そしてもう一人。


「お疲れ様……カレン」

「うん。おまたせ」

「よし!! じゃぁ行こうか!!」

「「おぉぉ!!」

「ちょ、ちょっと!! どこに行くのよ!?」


目の前の男の子の背中に問いかける。

「もちろん!! 俺達だけが視える世界を見に行くのさ!!」 

振り向いた男の子が笑顔を向けてくる。同時に片手をあたしの方に差し出してる。

「うん!! いこう!!」

迷わずにその手に自分の手を伸ばした。



 これが[私]が[わたし]になる理由。

 この人の背中が何故か大きく見えるから。


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