寿々とおなじく、真理愛も呆気にとられている。
「ねえ、あれって、キタミくんのひとりごと……ではないよね。だれもいない場所に向かって話しているけど……にしても、あの口調は荒すぎない?」
「わたしも驚いてる。あのギャップは、ちょっとすごいよね」
「寿々、いわせてもらうけど、あれはギャップなんて、可愛らしいもんじゃないわよ。人格が入れ替わったレベル。わたしのなかで設定した『品行方正な同級生のキタミくん』からは、完全に逸脱したキャラクターになっちゃってる。もはやキャラ崩壊レベル」
口の悪い毒舌キャラクターに変貌した左近之丞をみつめる真理愛の顔は、だんだんと険しくなっていった。
「たしかに、そういう設定もあるよ。でも、それってさあ、優等生がじつは血も涙もない極悪非道の黒幕でした~とか、陰キャがじつはメチャクチャ喧嘩が強かった~っていう、バトル系が主流じゃない? そうじゃないのよ。わたしの設定では、品行方正なキタミくんは、あくまで敬語キャラで、ちょっと仄暗さのある初恋執着系なんだけどな。オラオラ系はちょっとイメージとちがいすぎる」
最後まで話を聞いていた寿々だったけど、キタミくんが何系かは、正直どうでもいい内容だった。
執着系よりオラオラ系よりも気にかかるのは──こんな調子で、北御門左近之丞は本当に除霊できるのか?
「あれでどうやって、祓うのかな?」
実際問題、そこである。
真理愛の顔にも、少しずつ疑いが生じてきていた。
「あのさあ、寿々。せっかく呼んでもらってこういうのもなんだけど、禮子様の知り合いの霊能者でまちがいないんだよね? どっかのイケメン・マジシャンとかじゃないよね。あそこで青く光っている
それは寿々だって笑えない。
正直いってマジシャンではないにしても、霊能者としての実力は疑いかけているところ。ただ、やはり感じるのだ。
「霊力が強いのは、まちがいないと思う。先読みするときの禮子さんと似た気配を感じるし、この部屋に入ったとき、先週と先々週、真理愛に漂っていた空気の重さ──
地縛霊とやらが。
「そう、わかった」
基本、禮子の名前がでると真理愛は信用する傾向にある。
「ちょっと心配したけど、禮子様と似ているならいい。それに、もうこうなったら、あとはキタミンを信じて任せるしかないしね」
禮子ありきで信用したからなのか。
左近之丞の呼び名が「キタミくん」から、より親しみのある「キタミン」に変わったその瞬間。
「オマエ、そんなナリして、さっきから何をとち狂ったこといってんだ。さっさと成仏しろ。死にぞこないの色ボケ
ふたたび真理愛の不信感が首をもたげてきた。
「ねえ、寿々。最後にもう一度だけ訊くけど、あれ、本当に大丈夫なの?
いいたいことは良くわかる。だけど、ここは信じるよりほかない。
「禮子さん以外のお祓いは、わたしもはじめてみるから、なんともいえないけど。霊能者によっていろんなスタイルがあるって、まえに禮子さんがいってた」
「なるほどね。それじゃあ、あれが、キタミン・スタイルか……」
「……そうだね」
そうだといいけれど。
もうそれ以上言葉が見つからず、様子を見守ることにした寿々と真理愛の前で、毒舌スタイルはつづく。
「あっ? なんだって……黙れ。自分が一番可哀相だとでも思っているのか? このバカ霊がっ! まともに成仏できないくせに、恨みごとばっかりいうオマエみたいなヤツを、世間では霊害っていうんだよ。おぼえておけ──あ゛ぁ゛っ?! 英霊? 死んでまで寝ぼけたこといいやがって、耳どころか、魂ごと腐ってやがるな。今日からオマエは腐敗霊だ。わかったか!」
と、ここで、クルリと左近之丞がこちらを振り返った。
毒舌霊能者は「まいったなあ」と、ほとほと困りきった顔をしてみせ、
「穏便に成仏してもらおうと思っていたのですが、残念ながら話し合いで解決できる
寿々と真理愛の顔に、あれは穏便な話し合いなのか——という疑問がありありと浮かんだ。
そうしているうちに「仕方がありませんね」と上着を脱ぎ、ネクタイをほどいた毒舌系キタミンの次の一手はというと。
「言ってわからないようなので、荒魂を直接鎮めてやります」
実力行使にでるらしい。
「これから結界を平面から立方体にします。結界内の音や衝撃波などは内部に吸収されるため外に漏れることはありません。ただし、外側からの干渉は通過——つまり、寿々さんと真理愛さんの声は、僕に届きますので、何かあったら遠慮なく呼んでくださいね」
毒舌とはほど遠い、大変丁寧な口調で説明をしてくれた霊能者・北御門左近之丞は、
「それでは、またのちほど」
片手で印のようなものを結ぶと、ラグの上にあった