「えっ……?」
「俺は……。毎年届くあの花のおかげで、一人じゃないって思えたんだ。本当は分かっていたのに……自分はオメガで、どんなに頑張ってもアルファにはなれないって……でも……」
「……。ごめん、椿……。僕はそんな優しい言葉を貰える立場じゃないんだ……。僕は……」
浩二朗は俺の話を遮って、白衣の胸ポケットに手を入れようとしたが、その手を止めると、また俯いてしまった。
そんな浩二朗の頬を俺は手のひらで包むと、無理やり顔を上げさせて真っ直ぐ見つめた。
「ちゃんと俺の話を聞いてくれて。俺は……嬉しかったんだ。俺は毎日、自分はオメガかもしれないって不安に押し潰れそうになっていた。それに、この世界には俺のことを必要とも、そもそも存在さえ知っている人間もいないって、どこかで思っていたから……」
浩二朗の頬を包む手が微かに震え、俺の感情は昂り、涙が溢れそうになる。
だが、浩二朗を安心させようと必死に笑みを浮かべた。
「俺は……ここへは、アルファになるためにって来た。けど、今はお前の役に立ちたいって思ってる。オメガであっても……いや、オメガだからこそ、お前の役に立てるなら。だから教えてくれ。お前がここで、一体どんな研究をしているのか」
ベンチに座る俺の隣に浩二朗は腰かけると、白衣の胸ポケットに手を入れ、そっと何かを取り出した。
俺に向かって差し出された手のひらに乗せられていたのは、簡素なネームプレートだった。
(神山……)
だが、そこに書かれてた名前は、母の病室まで連れ立ってきた男と、そして俺のいる病院と同じ名前だった。
「神山ってことは、アイツと親戚か何かなのか?」
俺の質問に、浩二朗は明らかに顔を曇らせた。
「やっぱり……。椿をあそこに連れて来たのは、兄さんだったんだね……」
「兄さんって……アイツが? 浩二朗の?」
(えっ、でも……)
俺は男の顔を思い出すが、今思い出しても、浩二朗と兄弟と言えるほど似ているとは思えなかった。
眉間に皺を寄せた俺の納得していない表情に、浩二朗はフッと笑みを溢すと、俺の眉間の皺を押すように人差し指で触れた。
「似てないって思ったよね? まあ所謂、義理の……だからね」
(義理のってことは、父親か母親が違うってことか? いや、結構歳も離れている感じだったし、再婚の連れ子とか?って、何考えてんだよ俺……)
低俗な詮索しか浮かんでこない俺は、頭の中を空っぽにしようと首を横に振った。
そんな俺の姿を見て、浩二朗は少しだけ微笑んで、俺の眉間から指先を離した。
「きっと、あの人は僕のことを試したんだと思う」
「試す……? 一体何を?」
「椿をわざわざ助けるかどうか……かな」
首を傾げながら浩二朗は笑うと、ネームプレートを手の中で握りつぶそうにして、どこか遠くを見つめた。
「助けるかどうか? そんなの、浩二朗なら助けるだろ。なんでわざわざそんなこと……」
迷いもしない俺の答えに浩二朗は驚いた表情を浮かべると、俺をまじまじと見つめた。