日が沈み、いつの間にか辺りが薄暗くなってきたころ。
涙も声も枯れ果てた俺は、浩二朗の腕の中で微かに肩を震わせながら、嗚咽だけを漏らしていた。
「少し、落ち着いた……かな?」
そんな俺に、浩二朗は穏やかな口調で声をかけてきた。
俺は浩二朗の肩へ擦りつくようにしながら小さく頷いたが、浩二朗の背中で握りしめていたシャツから手を離そうとはしなかった。
すると、まるで壊れ物を扱うかのように、浩二朗は俺の背中に回していた手で、丁寧にゆっくりと俺の背中を擦った。
「大丈夫……。大丈夫だから……」
安心させるように耳元で優しく囁かれる浩二朗の声と手のひらの感触は、俺の心音と呼吸をさらに自然なものへと落ち着かせていった。
まるで木漏れ日が差し込んだような、心地よい温かさが胸の奥で湧いて広がっていく感覚に、俺はまた、枯れたはずの涙が溢れだしそうになる。
だが、俺はその感覚を抑えつけることはせず、受け入れるように自然と瞼を閉じた。
(ああ……)
落ち着くような、落ち着かないような、何とも言えない感覚を本当はいつまでも感じていたかった。
でも、そっと別れを告げるように、俺は瞼を閉じたまま軽く息を吐き出した。
そして、握りしめて離さなかった浩二朗のシャツから、指を一本一本、時間をかけてゆっくりと離していった。
全部の指を離し終えると、浩二朗の腕の中で何かの合図をするように、俺は小さく頷いた。
それは何に対しての合図なのか、俺自身にも明確には分からなかったが、浩二朗は俺の気持ちを感じ取ったように安堵の溜息を漏らし、俺の背中を擦っていた手を止めた。
「……」
浩二朗は何も言わずに俺の背中をポンポンと二回ほど軽く叩くと、俺を抱きしめていた腕の力を緩め、ゆっくりと身体を離していった。
「あっ……」
離れていってしまう浩二朗に、俺は無意識のうちに落胆の声を漏らしてしまうと、慌てて自分の口元を手の甲で隠した。
だが、こんな至近距離で聞こえていないはずもなく、浩二朗は俺から離れようとしていた動きがピタリと止まった。
「ち、ちが……!」
狼狽える俺は慌てて浩二朗から身体を離すと、弁解するように浩二朗に向かって顔を上げた。
「今のは、その……」
顔を赤らめながら必死な顔で弁解しようとする俺に、浩二朗は何も言わず、また笑みを浮かべていた。
「どう……して……」
そんな浩二朗の笑みに、俺は思わず思った言葉がそのまま零れてしまった。
それは、浩二朗が浮かべていた笑みが、今までとは明らかに違っていたからだった。
目を少し細めながら、表情をほころばせている浩二朗の笑顔。
まるで幸福に溢れているかのように、俺には思えたからだった。
「……っ!」
そんな浩二朗の表情に、胸の奥がズンとなり、今までと比べ物にならないほど急激に温かいものが広がっていった。
だが、その感覚と同時に、顔に更なる火照りを感じた俺は、浩二朗から顔を逸らしてしまう。
すると、浩二朗はゆっくりと俺に顔を近づけ、顔を逸らす俺の前髪を優しく指先でかきあげると、露わになった俺の額に唇をそっと落とした。