「ごめん。泣かせたいわけじゃないんだ……。ただ、僕にはちゃんと話して欲しいんだ」
切実な願いのように言う浩二朗に、俺はもう、どうしていいか分からなくなってしまう。
「ちゃんとって、なんだよ……。お前に俺は、何を言えばいいんだよ……」
俺は縋るように浩二朗のシャツの袖を右手で掴むと、俺の両頬へ添えられた浩二朗の手に力が込められたのを感じた。
「今考えていること、気持ち、ちゃんと僕に教えて欲しい。オメガには生きている価値もないの? 本当に……そう思っているの?」
涙で霞む俺の視界はぼやけながらも、浩二朗がしっかりと真っ直ぐ見つめてくれていることが分かった。
(そんなの……)
浩二朗の問いかけに、俺はこれ以上涙を溢さないよう押さえるため、大きく深呼吸をして息を吸い込み、思っていることを口にしようとする。
「ぁ……」
だが、俺の唇は震え、言葉にすることができなかった。
「大丈夫。ほら、ちゃんと口に出してみて……」
まるで促されるように、両頬へと添えられた手から、さらに力を込められたのを感じ取った。
俺は喉を鳴らして息を飲み込み、もう一度言葉にしようとする。
「だって……オメガはいらないって……。でも、アルファなら必要だって……。だからアルファなら、家に帰れるって……俺……今まで頑張って……」
「うん……」
浩二朗は、俺の言葉を受け止めるように優しく頷いた。
そして、俺から目を離すことなく、温かく見守るように優しく見つめ続けてくれた。
「でも、オメガじゃ……。オメガじゃ必要ない……。いらないんだ……」
声や唇だけでなく、手や足も震え出した。
だが、浩二朗がすべて受け止めてくれると思い、俺は必死に言葉を続けた。
「俺は……いらないんだ。だから、幸せになんか……なれ……な……。生きている意味なんて……」
心の内を言葉にするほど、俺の目は涙で霞んでいき、浩二朗の顔がほとんど見えなくなっていった。
(そうだ。俺は誰にも……必要とされないんだ。だから……)
そう思った瞬間、俺は浩二朗に腕を引かれると、そのまま浩二朗の腕の中に抱きしめられてしまう。
俺の背中に回された、浩二朗の抱きしめてくる腕の力強さと、重なった部分から伝わってくる体温。
それらはまるで、俺の心を溶かすようだった。
(なんて、温かいんだ……)
緊張の糸が切れたように、抑えていた涙が止め処なく、俺の目から溢れ出す。
「なあ……。俺……これからどうしたらいいんだ……」
俺は必死に縋るように泣きながら、浩二朗の背中に腕を回し、浩二朗のシャツを握りしめた。
俺の目から溢れる大粒の涙は頬を伝って、今度は浩二朗の肩を濡らした。
「嫌だよ、俺……。誰かに必要とされたい……。いらないって……もう、捨てないで……」
泣きじゃくりながら、俺は浩二朗のシャツを握る手へさらに力を込めると、浩二朗は痛いほど強く、俺を抱きしめてくれた。
それはまるで、俺を受け止め支えてくれているかのように思え、また、胸の奥が熱くなった。
「怖い……。怖いんだ……。これから俺は、どうやって……生きていけばいいんだ……。なぁ、浩二朗……! 浩二朗……!」
まるで助けを求めるよう、俺は浩二朗の名前を何度も叫び続けた。