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第14話 いらないって……もう、捨てないで

「ごめん。泣かせたいわけじゃないんだ……。ただ、僕にはちゃんと話して欲しいんだ」


 切実な願いのように言う浩二朗に、俺はもう、どうしていいか分からなくなってしまう。


「ちゃんとって、なんだよ……。お前に俺は、何を言えばいいんだよ……」


 俺は縋るように浩二朗のシャツの袖を右手で掴むと、俺の両頬へ添えられた浩二朗の手に力が込められたのを感じた。


「今考えていること、気持ち、ちゃんと僕に教えて欲しい。オメガには生きている価値もないの? 本当に……そう思っているの?」


 涙で霞む俺の視界はぼやけながらも、浩二朗がしっかりと真っ直ぐ見つめてくれていることが分かった。


(そんなの……)


 浩二朗の問いかけに、俺はこれ以上涙を溢さないよう押さえるため、大きく深呼吸をして息を吸い込み、思っていることを口にしようとする。


「ぁ……」


 だが、俺の唇は震え、言葉にすることができなかった。


「大丈夫。ほら、ちゃんと口に出してみて……」


 まるで促されるように、両頬へと添えられた手から、さらに力を込められたのを感じ取った。


 俺は喉を鳴らして息を飲み込み、もう一度言葉にしようとする。


「だって……オメガはいらないって……。でも、アルファなら必要だって……。だからアルファなら、家に帰れるって……俺……今まで頑張って……」


「うん……」


 浩二朗は、俺の言葉を受け止めるように優しく頷いた。


 そして、俺から目を離すことなく、温かく見守るように優しく見つめ続けてくれた。


「でも、オメガじゃ……。オメガじゃ必要ない……。いらないんだ……」


 声や唇だけでなく、手や足も震え出した。


 だが、浩二朗がすべて受け止めてくれると思い、俺は必死に言葉を続けた。


「俺は……いらないんだ。だから、幸せになんか……なれ……な……。生きている意味なんて……」


 心の内を言葉にするほど、俺の目は涙で霞んでいき、浩二朗の顔がほとんど見えなくなっていった。


(そうだ。俺は誰にも……必要とされないんだ。だから……)


 そう思った瞬間、俺は浩二朗に腕を引かれると、そのまま浩二朗の腕の中に抱きしめられてしまう。


 俺の背中に回された、浩二朗の抱きしめてくる腕の力強さと、重なった部分から伝わってくる体温。


 それらはまるで、俺の心を溶かすようだった。


 (なんて、温かいんだ……)


 緊張の糸が切れたように、抑えていた涙が止め処なく、俺の目から溢れ出す。


「なあ……。俺……これからどうしたらいいんだ……」


 俺は必死に縋るように泣きながら、浩二朗の背中に腕を回し、浩二朗のシャツを握りしめた。


 俺の目から溢れる大粒の涙は頬を伝って、今度は浩二朗の肩を濡らした。


「嫌だよ、俺……。誰かに必要とされたい……。いらないって……もう、捨てないで……」


 泣きじゃくりながら、俺は浩二朗のシャツを握る手へさらに力を込めると、浩二朗は痛いほど強く、俺を抱きしめてくれた。


 それはまるで、俺を受け止め支えてくれているかのように思え、また、胸の奥が熱くなった。


「怖い……。怖いんだ……。これから俺は、どうやって……生きていけばいいんだ……。なぁ、浩二朗……! 浩二朗……!」


 まるで助けを求めるよう、俺は浩二朗の名前を何度も叫び続けた。

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