(似て……いる……)
そう感じた瞬間、俺の心臓は高まり、咄嗟に俺は女性へ声をかけてしまった。
「あ、あの……!」
(あなたは……)
緊張で、俺の声は掠れて震えていた。
それでも、目の前の女性には十分届いているはずだったが、女性が俺に向かって振り向くことはなかった。
(えっと……)
「あのー……」
今度はできるだけ優しい声色で、俺は女性に声をかけた。
「……」
だが、それでも女性は微動だにせず、格子がつけられた窓の外をじっと見つめ続けるだけだった。
(はぁ……)
拍子抜けな反応に俺の力は抜け、高鳴った心臓は次第に落ち着きを取り戻していった。
(聞こえていないのか、無視されているのか……それとも……)
俺はとりあえず、ベッドのすぐ横に置かれていた木製の丸椅子に腰かけると、黙って女性を見つめた。
黒髪の隙間から微かに見える、鼻筋や輪郭。
細身というより、病的に瘦せ細った小柄な体形。
皺のない白いシーツの上に、力なく置かれた色白の手。
そんな吸い込まれそうな色白の手首には、無数の自傷行為の傷跡が浴衣の裾から微かに見えた。
(……)
痛々しい傷跡に俺は胸が締め付けられると、思わず息を飲み込み、静かに女性から顔を背けた。
すると、ベッド脇の小さなサイドテーブルに、黒い漆塗りの飾り櫛が置かれていることに気がついた。
(椿の花……)
漆が塗られた光沢のある黒い飾り櫛には、白い鳩が二羽と、真っ赤な椿の絵が描かれていた。
(あの花と同じ……)
艶やかに描かれている花弁の赤が、俺の部屋の窓辺に置かれていたものと同じだと感じ、俺は無意識に飾り櫛へ手を伸ばしていた。
「触わるなっ!」
「えっ?」
急に聞こえた声に驚いた俺は、飾り櫛に伸ばしていた手を思わず止めた。
すると、間髪入れずに俺は身体を強く押され、思いっきり突き飛ばされてしまった。
「……っ!」
突き飛ばされた衝撃で俺は椅子から転げ落ち、床に身体を打ち付けてしまう。
だが、俺は突き飛ばされた痛みを感じるよりも驚きが勝っていた。
(おとこ……? えっ……?)
突き飛ばされた時に聞こえた声は、少し高いものの、明らかに男性の声だった。
混乱して床を見つめる俺の視界に、骨の浮き出た裸足の白い足がゆっくりと入ってきた。
俺は見上げるように顔を上げると、 俺のことを見下ろすその目は、俺を蔑むように冷ややかなものだった。
「……!」
しかし、そんなことよりも、息をするのも忘れるほど、俺はさらに驚いて目を離すことができなくなった。
それは、他人の空似とは思えないほど、俺に顔がそっくりだったからだ。
頬がこけて痩せ細っているにも関わらず、目が離せなくなるほど端正な顔立ち。
俺は記憶の奥底に眠ったまま、微かに残る母の姿を思い出す。
幼いころの記憶でぼんやりとしていたが、目の前の人物より、自分に似ていないことは確かだった。
男性でありながらも、妊娠をすることができる性。
全てを悟った俺は、思わず言葉が零れてしまう。
「オメ……ガ……」