西園寺さんに足を掴まれていたけど、俺は腰を捻って振り仰いだ。
「あ……」
入って来たのは大雅だった。
上着は前と同じ、MA-1を着ている。下は普通に細身のデニムっぽい。
ちょっと髪が乱れていて、らしくない気もした。
「変なところを見られちまったな」
なんか俺は恥ずかしくて、視線が落ちた。
でもそうか。大雅来たか。どのみち成海さんと話し終わったら、一人で帰るつもりだったから丁度いい。成海さんが一人にならずに済んで良かった。
そうやってへらへらと笑って、俺は大雅をもう一度見る。
「ん? 大雅、どうした?」
大雅はなぜかその場で動かない。一点を見つめていた。
それは俺でも、惨事的状況のフロアでも、同じような格好をしたお兄さんたちでもない。真っ直ぐ見ていた。
不思議に思った俺は、その視線を追おうとした。だけどその途中で視界に入り込んだ店長の様子が目に留まった。
「え……」
大きく目を見開きながら、店長は静かに零した。
それは、この場にいるはずのない成海さんの愛称だった。
「まさか、あいつ……!」
脈が昇り上がるように暴れ始める。俺はすぐに視線を喫煙室に向けた。
視界に捉えたのは、何度も首を横に振って顔を強張らせる成海さんの姿。男は嫌がる成海さんの両手首を掴み、自分の方へと引き寄せようとしていた。
「――っくそ!」
フラッシュバックした。俺が電車でしたことと重なって、胸が引き裂かれそうになった。
けど、そんな感情……自分に向けた感情なんかどうでもいい!
助けなきゃ!!
「成海さんっ、成海さんっ!」
焦って手が震える。汗ばんで滑った。それが俺のものなのか、西園寺さんのものなのかはわからない。
俺は力ずくで足に纏わりつく腕を振り解きながら、大雅に向かって叫ぶ。
「大雅早くっ!」
「っ、妃色さん!!」
大雅は必死にそう成海さんを呼ぶと、俺たちの前を全速力で駆け抜けていった。
その声を耳にしながら、俺は状況を把握出来ずにいる西園寺さんを押し退かす。他の人たちの間を掻き分け、下に散らかる何かを踏み、俺も全力で走った。
「どいてどいてどいてっ」
どうか間に合ってくれっ。成海さんの好きな人が俺じゃなくていいからっ。
だから、だからお願いだよ。もう……あんな顔させられないんだっ!
「大雅ぁぁぁ!!」