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第70話 君が教えてくれた

 バイトの時間がもうすぐ終わる。つまり成海さんを好きでいられるのも残り僅か。

 これで、おしまいなんだ……。


 目を閉じると、瞼の裏には成海さんの顔と大雅の顔。俺の元を離れるかのように消えていく。

 田中のお陰で気持ちはずいぶん楽になったけど、一人になるとやっぱり怖くなった。告らないで、今までみたいに二人の間に入って、くっ付かないようにすればいいじゃんって誤魔化したくなってくる。


「決めただろ……」


 今まで俺に気持ちを伝えてくれた子たちも、こんな思いをしていたのだろうか。そんなこと、全く想像してこなかった。


 それはさ。言い訳をすれば、特別気を持たすなんてことを俺はしていない。

 野島みたいに積極的な子もいたけど、たまたま目が合っただけなのに気があるとか、授業の都合で喋った時に冷たくしなかっただけで勘違いされたりとか、そんなことがざらにある。他校の子の中には通学時間がかぶる人もいるらしくて、それが運命的と言われたこともあった。


 接点が少ないんだから、どうせ想いも軽いだろうと。

 俺の気持ちだって無視して、勝手に盛り上がっているんだからお相子だろって。そんな風に思っていたんだ。


 でも、初めて恋をして実感した。

 好きになる理由は、きっかけさえあれば十分なんだ。


 好きになったら自分の心に躍らされて、なんでも都合よく見えてくるし、つい気持ちが大きくなりすぎると、一番大切にしたいひとでも傷付けてしまったりもするっていうことを知った。


 だから俺も、みんなと一緒なんだ。

 今さら取り繕うことなんて出来ないし、意味もないけど。でもこれでやっと俺は、今までもらってきた想いに寄り添えることが出来たのだろう。

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