――あれ?
「おい。孝也お前、ちょっと寝てたぞ」
どうやら俺は、突っ伏したまま意識が飛んでいたらしい。
「え……あ、悪りぃ……俺どのくらい寝てた?」
俺は肘を立てて顔を覆い隠しながら、あくびをする。まだねみぃ。
「これ食い終わるまでだな。だから一分くらいじゃね? 何お前、寝てないの?」
「ん。まぁそんなとこ」
言い終わって、俺はもう一度あくびをする。そうして重い瞼に負けそうになっていると、頭にふわっと心地よい重みを感じた。
「俺も髪、伸ばしてみっかな~」
いつの間にか席から立ち上がっていた田中が、弟を可愛がる兄のように俺の頭を撫でていた。
眠いのもあって反応が遅れたが、髪の生えた田中を想像するとじわる。俺は大雅みたいに肩を揺らしてくくっと笑った。「長髪かっけー、かっけー」と目尻に涙を滲ませて言うと、田中はまんざらでもない表情で「だろ?」と返す。俺はまた笑った。
「俺帰るわ。そこに飲みもん置いといたから、ちゃんと飲めよ?」
「へ? うわっ本当だ。さんきゅ……」
驚いた。けど俺はなかなか脳機能が活性しなくて、テーブルに突っ伏したままストローが刺さったグラスをぼーっと見つめた。
「ついでに支払い済み。おごりな」
「え!?」
驚いた俺は、ガバッと勢いよく顔を上げて田中を見た。田中は鞄を肩に背負い、レシートをひらひらさせてケケケと笑っている。
お前まじか! イケメンかよ!
「じゃーな。頑張れよ」
田中はそう言ってコートを着込むと、ズボンのポケットから出したチャリの鍵を手のひらの上で弾ませながら店を後にした。
「ありがとな……」
俺は早速ストローをくわえた。
アイスレモンティー。口に含んだ瞬間、甘みが広がった。だけど後からレモンの渋みがやってくる。あまり好きじゃないのもあって、久しぶりの感覚だ。
けど、なんか。ただ甘いだけよりも飲みやすく感じた気がした。