電車を降りた後、俺は成海さんを家まで送った。晴れた夜空とライトアップされた帰り道。ロケーションだけは完璧だった。
「ただいま。って、いねぇか……」
今日も母ちゃんは夜勤だ。
俺はずびずびと鼻を啜りながら、廊下からリビングを覗く。キッチン側のテーブルには夕食がラップをして並べてあった。ここからは見えないけど、隣には俺へのメモ書きもあるはず。
俺は釈然としない気分を振り払うため、風呂へ入ることにした。自室に戻るのが面倒になって、膨らんだリュックは階段に、コートはその上に脱ぎ捨てた。
「っくし。ああ~さみぃー」
へらへら笑っていたくせに気が回らなくて、俺は成海さんが見兼ねた様子で教えてくれるまで、電車を降りた後もしばらくコートを着ないままだった。当然、体は冷え切ってしまっていた。
鼻を指で擦りながら服を脱ぎ、俺は風呂場へと足を踏み入れる。立て掛けたままでシャワーを流し、顔から浴びた。徐々に体が暖まってきて、冷え固まった頭が冴えてきた。
「やっば……。俺すっげぇことしちまったんだ」
ぼたぼた足元に滴り落ちる水滴を追うようにしゃがむと、ちょうどシャワーがあたった。その温度が、成海さんのものとあまりにも違い過ぎて、抱きしめた時の形が甦ってくる。窓に映る悲しそうな表情もフラッシュバックした。
「あんな顔……。何やってるんだよ俺……」
キスして、気持ちを押し付けた。
「笑わせてやるつもりだったのに、くそ!」
俺はタオルバーに引っ掛けたスポンジを勢いに任せて取った。ボディーソープを適当にプッシュし、立ち上がって上半身をガシガシ洗う。
だけど、段々と手が止まった。
「悪りぃ大雅、こんなもんじゃ全然落ちねぇよ。まじごめん……」
俺はごめんと口にしながらも、大雅への嫉妬に駆られていた。