「麻生……くん……?」
「ごめん……痛かったら言って……?」
今度は甘く。成海さんの耳元に囁いた。
「わ、わかった」
きっと成海さんは、俺が人の重さに耐え切れずに体を預けたんだと思っているだろう。
だけどすぐにわかってくれるはずだ。保健室で大雅の音を聞いたように、俺の鼓動も聞いてくれれば。
俺は気付かない振りをしていた。
ずっと、こうしたかったんだっていうことを。
見ているだけなんて、嫌だったんだっていうことを。
俺以外のやつなんかの目に、成海さんを映して欲しくなかったっていうことを。
本当はずっと俺だけのものにしたかった。独占したかったんだ。
成海さんはとてもいい匂いだし、すごく柔らかかった。ふわっと膨らんだところだけじゃなくて、背中も肩も腕も全部柔らかかった。自分との差異に女性を感じた。
罪意識はある。だけど越えてしまった俺は止まらなかった。
あ……どきどきしてる。
成海さんの音を全身で感じながら、小さな頭に顔を埋めた。
普段よりも特別に石鹸の香りが近い。好奇心を掻き立てられた俺は、まるで猫のようにじゃれながらそれを堪能し、そのまま白く細い首筋へ移動する。そっとキスを落とした。
強張る体を一度解放して、また抱きしめ直す。今度は耳に、わざと音を鳴らしてキスをした。
「成海さん、俺……」
俺、今すっげぇ幸せだ。
なのにこの喪失感はなんだろう。
顔を上げると、外は深い藍色で、扉の窓に成海さんが反射して映っていた。
あ……。
きっと大雅なら一生させることはない、成海さんの表情がそこにあった。