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第54話 いざッ、デートへ!

 白の外壁に、オレンジ色の三角屋根の一軒家。

 俺は今、成海さん家の前まで来ている。

 リュックにプレゼント、それから気合いを詰め、迷いは部屋に投げ捨ててきた。おしゃれもしてきた。


 チェック柄のステンカラーコートの下には、コートの色よりも明るいブラウンのパーカー。インナーには白のロンTを入れ、そんで細身の黒パンツを穿いて靴は白スニな。


 ややこしくなった頭ん中を、頑張って取っ払って、精一杯格好良くきめてきたつもり。そしてチャイムを鳴らせば――


「成海さんの私服が見れるぞっ」


 くあ~どきどきする!


 デートへの期待と、成海さんの家族と一緒だという緊張から、俺は妙なテンションだった。時間も時間なので、俺は早速傘を持っている反対側の手で、玄関チャイムを押す。お決まりの音が繰り返し響くと、インターフォンから成海さんの可愛い声が聞こえてきた。


 萌える。インターフォン越しとかレアかも……。鼓膜が幸せだ。


 温かみのある木の玄関ドアが勢いよく開くと、まず姿を見せたのは少年だった。


「お兄ちゃんが、あそーくん? あ、昨日来た人か」

「うん、そうだよ~」


 弟の勇介くんか。若干面を食らったけど、子供番組の歌のお兄さんのように、ちゃんと笑って柔らかく答えられたと思う。


「ふーん」と、勇介くんはじいっと俺を見据える。

 今日も腰にサッカーボールを抱えていた。サッカーがとても好きなんだろう。ボールは僕の友達って感じか。


「あ~勇介くん? 成海さんは?」

「成海さんって、僕も成海さんなんだけど。てゆーかさー、なんで僕の名前知ってんの?」


 勇介くんは胸を張り出し、スポーツマンらしく腹の底から出したような大きな声で、俺の質問を屁理屈付きの質問で返してきた。勇介くんの顔周りには、たくさんの白い息が舞う。


「ええ~っと、それはねぇ」


 押され気味の俺。気に入られようとしている節があるためか、普通にちびっこ相手に苦戦しているのかわからないけど、居心地が良くないことは確かだ。

 そうして手に変な汗を握り始めた時。


「ごめんね麻生くんっ」

「成海さんっ!」


 玄関口に成海さんが来てくれた。

 私服姿だ。満面の笑みになる俺に、成海さんは微笑みを返してくれたけど、すぐに勇介くんの方へと向き直した。そして腰を屈めて人差し指を立てると言った。


「こらーぁ。『こんにちは。今日は宜しくお願いします』でしょ?」


 成海さんはゆっくりと優しい口調で注意をする。勇介くんは「うるせー」と言っていたけど、俺は怒られてる自分を想像して一人照れていた。

 少し言い合いが始まったので、俺は大人しく成海さんの私服姿を堪能させて頂く。


 膨らみのあるゆったりとした袖が可愛い、濃いめのベージュのケーブルニットに、フロントにボタンが並ぶデニムのミニスカート。足元は、短めの靴下も靴も、黒で色を統一して揃えていた。


 ぎゃうー可愛い~。めちゃめちゃ可愛い~。そして、微妙に色合いが俺と揃ってる~。


「あ。このお兄ーちゃん、お姉ちゃんの脚なんか見てるよー」

「ぐあっ?」


 また大きな声で……っ!


「こらぁぁ」


 成海さんは勇介くんに顔を近付けて注意をする。俺に対してなのか、周りの目を気にしてなのか、すごく必死で慌てていて、すっげぇ恥ずかしそうにしていた。


 なんだこれ。めちゃめちゃ、くすぐったいんだが。


 いつまでも見ていられるけど、俺は咳払いをして声を掛けた。


「成海さん? あのさ、これ傘。貸してくれてありがとう」


 成海さんは勇介くんから視線を離し、俺の方へ駆け寄ってきてくれる。近くで見ると頬が、ふんわりのせたチークのように淡いピンク色をしていた。


「こちらこそ。ご丁寧にありがとうございます」


 成海さんは少し気まずそうに笑った。傘を受け取ろうとした両手が、俺の片手でだけで包めそうなくらい小さく感じて可愛らしかった。

 そんな風に、ぼーっと見つめていたからだろうか。


「あっ」


 成海さんの指先が触れて焦った俺は、思わず手を引っ込めてしまった。


「ごめん傘!」


 俺は急いで地面に落してしまった傘を拾おうとしゃがんだ。けど、だけど目の前には、成海さんの綺麗な素足が。


「あっ、ごめんねっ」

「へ? あ待って成海さん! その格好でしゃがんだら――」

「お姉ーちゃーんっ!」


 勇介くんの声に、これ以上ないってくらい俺の心臓が跳びあがった。


「touch持ってくるね~!」

「うんっ。上着もだよ~?」


 あ、危なかった……。


 傘を拾い上げ、俺はよろよろと立ち上がった。心臓がばくばくと騒がしい。

 そんな中、成海さんは俺に向き直すと「拾ってくれてありがとう」と微笑んだ。


「う、ううん。じゃあ改めまして、はい。貸してくれて、どうもありがとうございます」


 俺は傘の留め具辺りを持って、柄の部分を空けて成海さんに差し出す。今度は落とさないように、ちゃんと掴むまで見届けた。


「じゃあ、行こうか。成海さんも上着。暖かくしてきてね?」


 俺に成海さんは、にこっと微笑んで応える。成海さんの頬は、寒さの所為かすっかり雪のような白に戻っていた。


「うんっ。ありがとうっ」


 そう言って家に戻っていく成海さんの後ろ姿を、俺は熱っぽく見つめた。

 勇介くんがいてくれて良かったのかもしれない。

 指先は冷えているのに、体中が熱かった。

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