成海さんと一緒に帰れるチャンス。それを俺は棒に振った。
野島たちもいるから二人きりではないけど、男は一人だし、大雅がいないから有利って言うか、優越感に浸れたはずだ。
だけど今、俺は一人で家に向かって歩く。
「どうせこの後デートだし」とか、そういう余裕から一人で帰っているわけじゃない。そんなもったいないこと、俺には出来ないから。
ただ普通に気分が乗らなかったんだ。
後でねと成海さんに声を掛けて、男子たちや話し掛けてきた女子、それから笑っているけど心配していそうな花守にもまたなと言って、俺はクラスの誰からも特別冷やかされることもなく教室を出た。
それで違うクラスの女子とか、他の学年の子が待ち構えていて、きゃーきゃー言われながら廊下を抜けてきて。昇降口までくっ付いてきた女子には、明日ねって上手く笑えたかわかんないけど手を振っておいて、それからローファーに履き替えて、俺は校門を出た。
今はもう本屋を過ぎたところ。成海さんのバイト先も、見える距離だけど過ぎた。
「成海さんのエプロン姿、すっげぇー可愛かったな……」
大雅が明日も休みだったら、俺は一人で成海さんのところへ行けるんだ。終わりの時間に合うように、不自然じゃないくらいに長居して、成海さんを眺めながらパフェ食って、たまに喋っちゃったりなんかして、それから一緒に帰るなんてさ。
「めちゃめちゃ楽しみ……だ、な……」
盛り上がるはずの妄想が、小さなため息で消えた。
「なんか寒い」
成海さんを想うと、大雅の顔がちらつく。
前からそうだったけど、前よりなんか残る。消えない。大雅が消えない。
けど、視線が気になって思わず足を止めた。
「落ち込んでる俺を見るのって楽し?」
口をついて出る自傷気味な言葉に、俺ははっとする。
なんで落ち込んでんだよ……っ、これからデートだろ⁉
「ごめん、俺行くから」
そう君に断ってから、俺は歩くペースを上げた。