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第52話 たまには、俺の日

「麻生くん、見付かるよ~?」


 花守は俺の方へ体を向けると、声をひそめてそう言った。それに反応して、他のやつら数人も同じように振り返ってくる。みんなして「授業中に仕方がねぇな」と言わんばかりの表情だ。だけどそのまま俺が無言でスマホをいじっていると、その眼差しは次第に子供を見守る母親のようなものへと変わっていく。

 一つ前の席に座る田中も例外ではない。

 先生の目を盗んで机の下で指を動かす俺に気付くと、にやけながら「おい、女か?」と茶化してくる。けど、いつもみたいなノリが返って来ないとわかると、それ以上は突っ込まずにいてくれた。


「あぶね」


 チョークの置かれる音が、がやつく教室にもなぜか際立って響くと、田中と他のやつらは呼吸を合わせたように、俺に向けた体を前へと戻して座り直す。俺も丸まった背中を正し、ポケットにスマホを仕舞って、ノートの上でシャーペンを滑らせた。


(二股しちゃってるって正直に言ったんでしょ?)


 何も答えられなかった。なんで野島がそれ聞いて余裕なんだ?


(お前が居るなら楽しめるだろ)


 ああ、そうだよ。そのつもりだよ。


 だけど俺は、大雅から成海さんを取ろうなんて思っていない。思ってなんかない。

 だから、こうやって教えたんだからな。

 けど……だけど、たまにはそういう日があっても、プレゼントくらい渡しても、好かれようとするくらい構わないだろ?


 お前だって顔隠して、気持ち見せてんだろ? 保健室で成海さんと、くっ付いていただろ?

 もし反対に俺が休みの時は、当たり前に一日中成海さんと一緒に過ごすだろ?


 俺も同じことをするだけだ。

 好きだって言わないからさ。大雅の話もするしさ。


 だから今日くらいは、お前が我慢しろよ。

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