ち、ちげぇよ。
「俺は一言も、そんなこと――」
「おおおお二人はご注文いかがなさいますかー⁉」
心臓が飛び跳ねた。大雅も同じみたいだ。目を丸く見開いて、わかり易く驚いている。
きっと成海さんは俺たちを気遣って来てくれたんだ。後ろの扉が忙しなく開いて閉じてを繰り返していた。
すっげぇ可愛い格好で、前髪乱して、取り繕うように笑って、心配して。
ああ……大雅が好きじゃなかったら……。
「話、聞いてた?」
「へ?」
アホな声が出た。顔を大雅に戻す。
「ううん。来たばかりだし、聞いてない聞いてないっ」
声に反応して、また成海さんに顔を向けた。俺に訊いたのかと思ったけど、違ったようだ。何にしても、今の会話を聞かれてなくて良かったと、俺は大雅の後に続いて胸を撫で下ろす。
「それに、そんな趣味もありませんから」
成海さんは笑う。笑っていてわかりにくいけど、やっぱり大雅には伏し目がちになって答えていた。でも俺にはちゃんと目を合わせてくれる。今だって大雅に訊かれたのに、それでもだ。
「それよりお客様。さぁさぁ、ご注文を~?」
目と眉の間隔を狭め、凛々しい表情を作る成海さん。成海さんが煽っても可愛いしかない。だから可愛さに負けて笑ってしまった。結局ふりだしだけど、成海さんの持つ空気感に助けられて景色もキラキラに戻った。
――よし!
「スイーツ食いに来たんだぁ俺。成海さんのおすすめとかってある?」
成海さんのって言ったし、少しアピール出来た。ぱぁっと花が開くように、明るい笑顔を咲かせた成海さん。その姿に手応えを感じた俺は、サイドメニュー表を開いて成海さんに見せる。
「大雅も、なんか食うだろ?」
俺は苺のパフェ、それから夕飯にテイクアウト出来る弁当を二品頼んだ。もちろん成海さんが真剣に選んでくれたやつを。そして大雅はコーヒーゼリーを注文していた。
大雅よ、それおすすめと違うし。ま、甘いもん苦手だもんな。
「かしこまりました」
成海さんは、丁寧にゆっくりとお辞儀をする。俺たちも合わせてした。頭を上げると、成海さんの控えめな笑みがまた俺だけに届く。
なんだかんだ色々渦巻いたけど、この笑顔だけで俺は充分に救われた。
注文を承けた成海さんは、一度俺たちの元を離れた。けれどすぐに踵を返して帰ってくる。
どうしたんだろうと不思議に思いながら、どこか恥ずかしそうに唇をきゅっと結ぶ成海さんの言葉を、大雅と一緒に待つことにした。
「……あのね、二人には感謝してるんだ。色々心配もしてくれたでしょ? だから……ん? だから? えっと、そうじゃなくてその」
まとまっていない感じが、一生懸命だなって感じる。こういうところも好きなんだ俺。
「私もね、愛奈と優子と言い合うことだってあるし、知ってくれている通り、気まずくなったこともある。でもね、近くにいるんだからそんなの当たり前だよっ。大切な人だから本音を見せるのが怖かったり心配になったりしたけど、私たちは一度壊れても大丈夫だった」
「仲直りする
「なんでも言い合える方が、きっと心を通わせられていいよ。なんのことかはわからないけど、今みたいに話せるのって素敵だと思う。それに私たちね、あのことがあってから、前よりも仲が良くなった気がするんだ。変な遠慮が要らなくなったっていうか……。あ~……もしかしたらみんながみんな、上手くいくわけじゃないかもだけど、きっと優しい二人なら大丈夫。だからね、その……」
成海さんは胸の前で、両手の指先だけを付けると言葉を止めた。
なんだろう。俺たちのために、一生懸命言葉を綴ってくれていることに対してだけじゃない。奥ゆかしくて……どきどきする。体温が上がる。
成海さんは瞳を潤ませ、頬を赤く染めた。そして今度は、大雅の顔も一瞬だけだけど見て。そんな当たり前なことに、わざわざ俺は悔しさを感じる。
「そういうところも私は……」
だけど、いつか重ねてみたいと見つめてしまう桃色の小さな口から贈られた言葉は、俺のそんな考えを簡単に吹き飛ばした。
「すごく……いいなって……好きだなって思ったの……」