六限目、古文。先生は黒板と会話していて、一向に振り返る気配がない。
そうなってくると甦ってくるのはやっぱり、保健室での大雅の発言だった。
(俺が成海さんとキスしても良く――)
ねぇよぉぉ。良くねぇんだよー……。
恐ろしい矢を放物線を描くこともなく、近距離で刺し込んできた大雅だったが、突然「気にしないでくれ」と照れ始めて自滅した。それから予鈴が鳴ったことで後腐れなく済んだわけだけど、でも俺からしてみれば、命拾いしたと言い難くも感じた。
は、はぁ~? 気にしないでくれってなるなら、最初っから言うなよ~。
机に突っ伏して、そう心の中で嘆いていると、背後から大雅の視線を感じた。もう前も後ろもグッサグサだ。
だけど、突っ伏している理由はそれだけじゃない。赤面する顔を隠すためだったりもする。成海さんのあの言葉がまだ耳に残っていて、頭から離れていかないからだ。
「きゃっ」
雷に怯えて、クラスの誰かが小さく悲鳴を上げた。
成海さんは怖くないだろうか。苦手そうだよな?
少しどんな反応をしているのか知りたい気もするけど、大雅にバレるし振り返ることが出来ない。
だから俺は、このまま成海さんのことを考える。
成海さんを意識し始めたのは、二年に上がって、同じクラスになった時からと言えばそうなんだけど、でも好みだなーとか、可愛い子いるじゃんとか、最初はその程度に思っていた。
きっと時間が経てば自然と好きになっていく、でも何かが足りなければ育たない。初めは、そんなデリケートな種のようなものだった。
けど育っちまった。花、咲いちゃったんだよな~。
土の中に身を燻ぶらせていた種は、今やもう満開に咲くまでになった。それってなんだかんだ、大雅の影響が大きい。あと野島たちもだ。
そうだな。始まりは、大雅のあの一言からだったっけ。