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第29話 遅かった

 ドアが開けっぱなしだなと思った。


 電気は点いていても、天気が悪いから廊下が暗い。保健室の明かりが、ひと際目立つ。

 まるでダンジョンを抜けた先にある、最高のエンディングを迎えるようだとか、馬鹿みたいなことを考えた。


「なんだ?」


 叫び声を聞いた。なんとなく大雅っぽい。

 妙な胸騒ぎを覚えるけど、これはきっと吊り橋効果の類。会いたい気持ちと、ごちゃ混ぜになっているだけだろう。それにもう目と鼻の先。今に着く。

 そうやって後ろ向きな妄想は捨て、俺は片側に重なる保健室のドアに手を伸ばした。


「お昼、食べそこなっちゃ……」


 聞こえたその声に、俺は全身で反応する。だけど正面には成海さんの、二人の姿はない。

 俺はドアを後ろへと押し出して、床を蹴った。体が前方に飛び出る中、俺は予め用意していたあの台詞を、一度頭に流してチュートリアルをする。


 本当は成海さんの名前を呼んでみたい。でも今はぐっと我慢して、代わりに大雅をフライングして呼んだ。上手い具合に、適当に、俺は笑顔を作って。


 先に視線を持っていき、後から体を向けていくと――


 あれ?


 様子が変だと思った。少し離れた場所に、一脚の丸椅子が倒れていて、その先には大雅がいる。だけど、その大雅の後ろ姿に違和感を感じた。


「弁当持ってき……た……って」


 えっと、待てよ。成海さんは……いた。

 でも、なんで。


「嘘……だろ……」


 なんでキスしてるんだよ……。

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