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第27話 いっぱい。

 綾瀬くんの顔、天井、腕を掴まれる感覚、体を包む柔らかい布の感触、カーテンレールの音、クリーム色。それから、また綾瀬くんの顔。確かそんな順番だった。

 私は後ろ向きの体勢でひっくり返った。転んだんじゃない。ひっくり返った。まるで紙相撲のお人形が倒れたように、背面からこてっと。

 そして今、背中をしっかり受け止めるのはベッドだ。少し硬い。なるほど、これは仮眠に最適かもと思った。


「だ、大丈夫……?」


 心臓がバクバクしている。思いも寄らずにひっくり返って、私の心臓はびっくりしている。

 だけど安全が確保されたとわかれば、頭の中は意外と冷静になれる。落ち着き払う。


 ぐぅ~。きゅるるる~。


 綾瀬くんの目が見開いた。


 ちょ、ちょっと、お腹ぁ。そこまでリラックスするのは違うぞぉぉ……。


 私は間抜けに、バンザイした格好で失態を晒した。


 でも、どきどきなんてしていない。全然していない。なんたって私はバクバクしているんだから。


 そんなこんな考え事をしながら目を泳がせていると、綾瀬くん越しに掛け時計が見えた。


「ごめん綾瀬くん!」


 たぶん青い顔で、私は勢いよく飛び起きた。


「お昼、食べそこなっちゃ……」


 だって長針がもう六を過ぎている。お昼休みが終わるまで、あと十五分もない。

 だからその。この状態は、その……。


「大雅ぁ! 弁当持ってき……た……って、嘘……だろ……」


 このあっけらかんとした声に、気を向けるなんて無理だった。

 だって私はずっと。本当はずっと、綾瀬くんのことで頭がいっぱいなんだ。

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