「はいよ」
母さんからカレーを差し出される。平らな皿にうず高く盛られ、受け取るのにはコツがいった。
俺は手のひらを火傷しながら、きのこソテーやらポテトサラダやらと一緒に盛られたハムカツが乗る皿と、福神漬けが入った小鉢の間にそれを置く。俺は福神漬けが嫌いだから、そのままカレーを掬った。
「大雅。最近顔、変わったね?」
「は? 母さんこそ、顔変わったんじゃね? いっただきますっ」
空腹中枢を刺激されているものだから、つい適当に返事をした。だが向かい側に立つ母さんの異変に気付いた俺は、口を開けたまま固まってしまう。
「どういう意味かな、大雅さん?」
腕を組んで俺を見下ろすように、母さんは仁王立ちをする。毛先をなびかせ髪を逆立たせる母さんの幻影を、俺はその姿に見た。
「修羅だ……」
「大雅。今、何て言った?」
「綺麗だ……。って言ったんです」
母さんは不服そうに「まぁいいけど」と言うと、向かい側の席に座る。テーブルに頬杖を付いて喋り始めた。
「それよりさ、弟から聞いてるよ~? バイト、なかなかの盛況なんだってねぇ」
なんかすっげぇ嬉しそうだな。
「まぁね」
俺はまた適当に返事をして、話題を変える。
「母さんってさ、俺の部屋も掃除してんのな? 一応俺もやってんだけど」
「え? ああ、そりゃぁ~そうよー。大雅がするだけじゃあ心許ないからね。クオリティーが違うのよ、母さんと」
いちいち恩着せがましいやつだな。
俺が「へー」と返すと、母さんは「そこは、ありがとうと言うべきじゃないの?」と、これまた恩着せがましく言ってきた。
……そうか。じゃあ、あれ。サッカーボールも見てんだよな。
「ふぅん」
俺がそう返事をすると、「その言い方は嫌われるよ。へ~、にしなさいね?」と、母さんは注意を付けた。
うぜぇ~
お喋り大好きおばさんの餌食にはなりたくない俺は、急いでカレーを口の中へと流し込んだ。だがハムカツが結構手強く、おまけにポテトサラダもある。思うように喉を通らない。
俺が早食いに苦戦していると、母さんの方から席を立ってくれた。
なんだ? 弾切れか?
「いーい大雅? 若いからって油断しないで、健康のためにゆーっくり食べなさいよ? それじゃあ母さん、お風呂入ってきちゃうから、おかわりはセルフサービスにします。お好きなだけ、ごゆるりとど~ぞ~」
ペラペラと口を動かし、手をひらひらさせて、母さんは風呂場の方へと消える。
「うざ……」
けど、話くらい付き合ってやっても良かったのかもなとも思った。
麦茶を一口飲み、俺は残りのハムカツとポテトサラダをよく味わいながら平らげた。