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第14話 乗っていい?

 ピーッと手笛が鳴ると同時に、電車のドアが開く。湿り気を帯びた生暖かい空気が俺たちを迎えた。


「なんか人いっぱいだね」


 成海さんの言う通り、到着した電車内は満員に近い。どういう訳か、頭にバンダナを巻き、チェックのネルシャツを着ている太ったり痩せたりの男性が、わんさか乗っていた。


 何かイベントでもあったのか?

 おい。みんな、汗をかいちゃってるじゃないか。


 いつも電車を利用している人なら誰でもわかると思うが、教室以上にこの時期の車内も暑い。

 男性が群がるこの電車に、なんとなく成海さんを乗せたくないと思った。加えて俺も遠慮したい。


「ほんとだ。なら、次のに乗ろうか?」

「うん、そうだね。また次のに乗れば……あ」


 瞬きを忘れ、一点を見つめる成海さん。いつまでも眺めていられるが、俺はその愛くるしい視線の先にある電光掲示板を見て、なるほどなと思った。

 一五分後を示す数字と、普通・北本郷行きの文字が繰り返し流れている。

 ちなみにこれは、次の駅に停車した後、降りたい駅とは違う方向に進んでいく電車だ。要するに、また乗り換えが必要になる。しかしそれだけなら些細な手間だが、次の駅は各駅しか停まらない。田舎電車の少ない本数で、これは厄介な仕様だった。

 時刻表で確認すると、やっぱり。次の駅で降りてしまうと、一度快速が通るから四〇分は待たされる。


「くしゅんっ」


 駅の風通りの良さは最高レベル。しかも太陽が完璧に沈んだ今、寒さも最高レベルだ。ついでに言えば、くしゃみをした成海さんの照れ顔の可愛さも、最高レベルフルスロットル。って、ふざけてる場合か。いやまじだけど。


 俺はこれ以上は待たせられないと思いながらも、この電車に成海さんを乗せるのも気が引けていた。

 どうすべきか思案していると、成海さんが俺に視線を合わせた。


「綾瀬くんが良ければ、乗ろうと思うんだけど……」

「えっ、いいの?」


 笑顔で頷いてくれる成海さん。俺も自然とつられて笑う。

 そんな風に向かい合わせになりながら仲良く白い息を作っていると、発車を報せるアナウンスが流れる。俺たちは慌てて黄色の線を越えて乗車した。

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