成海さんに会いたくて、俺はまだこのステージに立っている。
散々なステージだったからクビになるかと思ったけど、どっかの事務所を通したキャストを呼ぶよりも、俺の方が叔父さんたちにとってメリットがあるらしい。
むしろ、次も来てくれるか心配されたくらいだ。
『貴様など、この俺様の相手じゃない』
初日はあんな失態を晒したが、今となれば多少気が散っていても平気なくらい、すっかり手慣れたもの。なぜならほぼ動きは変わらないし、何より俺は努力を積み重ねてきたからな。自負とか、イタイのかもしれんが。
『俺様の華麗な技、受けたい?』
もちろんそれは、全て成海さんに喜んでもらいたいがため。いいところを見せたい気持ちもあるが、どっちかって言うと俺はまた……。
俺は、少し離れて観ている成海さんを見た。
成海さんは寒空の下、マフラーと手袋をして俺を……いや、レイを応援しに来てくれている。
あ。今日のマフラー、学校で巻いてきているものと違うな。もしかしたら、お洒落をして来てくれているのかもしれない、
――俺のために。
って、わけねぇ~。もしそうだったら、すっげぇ嬉しいとこなんだけど。
でもまぁ、そこはもう俺で。ほぼ俺でいいだろう。
てか成海さんは、いつも少し離れた場所から観てくれているんだよな。
もっと近くで観て欲しいのが本音だけど、成海さんのことだ。子どもたちに配慮しているんだろう。やっぱいい子だから、成海さんは。
それに引き替えて、あいつらは、なんなんだよ。
俺は胸糞悪くなりながらも、音に合わせて気高くモーションをとった。それから敵に必殺技を浴びさせてやる。
――指鳴らしだけで。
『グリッタージャスティス!』
迫力いっぱいの効果音と共に決めポーズを取ると、子どもたちに付き添う保護者までも一緒に歓声を上げた。
そんな感興の視線が集まる中、俺は成海さんだけを見つめていた。