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第8話 コソ練してきた

 成海さんに会いたくて、俺はまだこのステージに立っている。


 散々なステージだったからクビになるかと思ったけど、どっかの事務所を通したキャストを呼ぶよりも、俺の方が叔父さんたちにとってメリットがあるらしい。

 むしろ、次も来てくれるか心配されたくらいだ。


『貴様など、この俺様の相手じゃない』


 初日はあんな失態を晒したが、今となれば多少気が散っていても平気なくらい、すっかり手慣れたもの。なぜならほぼ動きは変わらないし、何より俺は努力を積み重ねてきたからな。自負とか、イタイのかもしれんが。


『俺様の華麗な技、受けたい?』


 もちろんそれは、全て成海さんに喜んでもらいたいがため。いいところを見せたい気持ちもあるが、どっちかって言うと俺はまた……。


 俺は、少し離れて観ている成海さんを見た。

 成海さんは寒空の下、マフラーと手袋をして俺を……いや、レイを応援しに来てくれている。


 あ。今日のマフラー、学校で巻いてきているものと違うな。もしかしたら、お洒落をして来てくれているのかもしれない、

 ――俺のために。

 って、わけねぇ~。もしそうだったら、すっげぇ嬉しいとこなんだけど。

 でもまぁ、そこはもう俺で。ほぼ俺でいいだろう。


 てか成海さんは、いつも少し離れた場所から観てくれているんだよな。

 もっと近くで観て欲しいのが本音だけど、成海さんのことだ。子どもたちに配慮しているんだろう。やっぱいい子だから、成海さんは。

 それに引き替えて、あいつらは、なんなんだよ。


 俺は胸糞悪くなりながらも、音に合わせて気高くモーションをとった。それから敵に必殺技を浴びさせてやる。

 ――指鳴らしだけで。


『グリッタージャスティス!』


 迫力いっぱいの効果音と共に決めポーズを取ると、子どもたちに付き添う保護者までも一緒に歓声を上げた。

 そんな感興の視線が集まる中、俺は成海さんだけを見つめていた。

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