土日には敵わないが、平日でも意外と賑わいをみせる小さな遊園地。たまにドラマのロケ地になるような場所で、隣にはライオンの赤ちゃんやカピバラがいる動物園もある。
ほとんどの客が子連れの家族か、遠足に来ている低学年くらいまでの小学生の団体。中学年くらいなら、友達と来るには程よいアミューズメントパークになるだろう。俺もその歳くらいに、クラスの子とデートに来た経験があるし。
俺はここでバイトをしている。そしてここには、
「綾瀬くん今日も宜しくね」
「はい叔父さん」
テントの中。いつも通り俺は、サッカー選手が控えで着るような、足首まで覆う丈のダウンコートを羽織り、時間が来るまでパイプ椅子に座って待つ。
このダウン、俺より前の代から着ているものなのか、やや薄々になっていて、あまり暖かくない。公式の本家本元での場所なら、もう少し扱いは変わったであろう。というか、テントじゃなくて楽屋があるよな。
「そろそろスタンバイして」
俺は返事をして席を立つ。すぐにダウンを脱ぐと、ハンガーに掛かってるロング丈のジャケットと交換した。周りに衣装スタッフなどいない。最終確認は自分の判断だ。
俺は鏡の前に立ち、全身を見る。
よし、大丈夫そうだ。
仕上げに両肩に付いている金のフサフサを手櫛で整え、俺はジャケットの上からベルトを締める。
「よしっ。ベルトに小型タブレットを装着して」
こんなところ、絶対子どもたちには見せられないな。でも俺にとってみれば、彼女に見られないことの方が一番大事なのだけど。
表からテンポのいいイントロが流れ始めると、ささやかながら歓声が聞こえた。男の血が騒ぐ。俺は歌唱力おばけのアーティストと一緒に、メインテーマ曲を口ずさみながら、彼女に想いを馳せる。
もうそろそろだ。
俺は支給されたペットボトルのお茶を一口飲み、慣れた手つきで真っ赤なフルフェイスマスクを被った。