それからというもの、僕は毎日毎日訓練に明け暮れた。
おじさんの言うとおり、訓練はとても厳しくて苦しかった。
けれど、それでも僕は、まひるちゃんたちを思ってどんなに辛い訓練も乗り越えた。
僕にはやるべきことがある。
弱音を吐く暇があったらもっと努力をして、ひとりでも多くのひとの命を救うんだ。
あの日できなかったことを、できるようになるんだ。後悔しないために。
そう、何度も挫けそうな心に言い聞かせて。
そして僕はとうとう、いくつもの難しい試験を突破して、本物のレスキューになった。
災害現場でひとつ、またひとつと命を救うたび、僕の胸を支配していた罪悪感が取り払われていくようだった。
***
レスキュー隊になって十年が経ったある日、あのときと同じような大きな災害が起こった。
僕はすぐさま、おじさんと災害現場に出動した。
目の前には、あのときと同じような地獄絵図が広がっている。けれど、不思議と怖くはなかった。
だって、今の僕はあのときとは違う。きっと、たくさんのひとたちを助けることができる。
「だれか……」
瓦礫の中から、今にも消えてしまいそうなかすかな声が聞こえる。
「だれか、たす……けて……」
小さな声が、たしかに聞こえた。
胸が熱くなった。
――大丈夫、今助けるよ。すぐに助けるから、あと少し頑張って。
僕は大きく叫んだ。
――要救助者がここにいるぞ!
その場にいたレスキュー隊員たちが、総出でひとりの女の子を助けるために動く。
そうして、瓦礫の下から救い出されたのは、小さな小さな女の子だった。
どこか、まひるちゃんの面影と重なる女の子だった。
――あぁ、助かってよかった……。
ホッとしたときだった。
女の子を抱き上げたレスキュー隊員の真上に、大きな影が落ちた。
その瞬間、僕には、その場所だけがまるで時が止まったかのようにスローモーションに映った。
瓦礫が、落ちてくる。
――危ないっ!
僕は咄嗟に、隊員ごと女の子を突き飛ばした。
「うぁっ!」
隊員が衝撃でよろけて転ぶ。その直後、轟音が響いた。
「おいっ! どうした! 大丈夫か!?」
音に気付いた隊員たちが駆け寄ってくる。
「俺たちは大丈夫、ただ……」
「おい、レイ!」
「レイ! 大丈夫か!? 血が……!」
「すぐに運べ! 急げっ!」
泣き声が聞こえる。
僕は力を振り絞って目を開ける。
うっすらと歪んだ視界に入ったのは、女の子の泣き顔だった。まひるちゃんに似た女の子が、僕を見て泣いている。
――泣かないで。僕ならぜんぜん大丈夫だから、だから、泣かないで。
そう言いたくても、声が出ない。
――足が痛いよ。身体が熱いよ。僕、どうしたの……?
意識が朦朧とする。
「うわあぁぁん!」
女の子がひときわ大きな泣き声を上げた。
ハッとした。
――あぁ、この声だ。
僕はずっと、まひるちゃんのこの声が聞きたかった。悲しそうでもいいから、生きている証のこの声を。
だけど、まひるちゃんはなにも言わなかった。動かなかった。
十年前の僕は無力で、大切な家族を助けられなかった。
だけど今日は、ちゃんとできたんだ。助けられたんだ。
これまでずっと、訓練を頑張ってきてよかった。僕が生かされたのは、きっとこの子を助けるためだったんだ。
足の感覚がなくなっていく。
もしかしたら、僕はもうダメかもしれない。
でも、後悔はない。悲しくはない。むしろ誇らしいくらいだ。
空に昇ったらきっと、まひるちゃんや、パパとママに会える。
家族に会えるなら、死ぬのなんて怖くない。
僕は静かに目を閉じた。